最新記事

北朝鮮

金正恩の無茶な要求に「登校拒否」で抵抗する北朝鮮の子供たち

2018年6月20日(水)11時40分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

北朝鮮の子供たちは勤労動員と物資供出に苦しめられている KCNA-REUTERS

<学校の生徒が農作業への勤労動員や物資、金銭の供出を求められる北朝鮮では「登校拒否」という手段で抵抗に出る子供たちまでいる>

北朝鮮の学校に通う生徒たちは、大きな負担を伴う「課題」に苦しんでいる。課題と言っても、日本の学校で言うところの宿題や自由研究ではない。労力(勤労)動員と物資供出のことだ。しかし中には、これに抵抗する生徒たちもいる。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が実態を報じた。

生徒たちにとって最も辛いのは、新年に行われる「堆肥戦闘」、つまり肥料に使う人糞を集める作業への動員だろう。膨大な提出ノルマを押し付けられ、寒風の中を人糞を求めてさまよい歩くのだ。

課題はほかにもある。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、当局は「社会動員課題」と称して、「工業用の油が必要だ」との理由で大麻とトウゴマを植える作業に清津(チョンジン)市内の各学校の生徒たちを動員している。生徒たちは授業そっちのけで、学校や鉄道の線路の周囲に大麻畑やトウゴマ畑を造成する作業に追われている。

それだけではない。大麻とトウゴマの種、養蚕に使う蚕棚を購入する費用を「忠誠の子供資金」として、1人あたり1500北朝鮮ウォン(約195円)を納めることを強いられている。先月も「学校と村の美観事業を行うため」として、その費用を払わされた。

大人の言いなりになっているように見える北朝鮮の子供たちも、心の内では従順なばかりではない。

参考記事:金正恩センスの制服「ダサ過ぎ、人間の価値下げる」と北朝鮮の高校生

中には覚せい剤を使いながら「不純異性交遊」に走り、社会問題を引き起こす少年少女たちもいる。

参考記事:北朝鮮で少年少女の「薬物中毒」「性びん乱」の大スキャンダル

親たちも、わが子が好き勝手に酷使されるのを傍観してはいない。ただでさえ暮らしが苦しいのに、次から次へと押し付けられる「課題」に耐えかねて、親は子供を登校拒否させるというサボタージュに乗り出した。

両江道(リャンガンド)の情報筋によると、政府が推進している三池淵(サムジヨン)郡の建設事業にも生徒たちが多数動員されており、これに対する恨みの声が上がっている。

「ただでさえ労力(勤労)動員ばかりなのに、大がかりな建設事業にまで動員し、『忠誠の子供資金』まで搾り取っている。さすがに、生徒たちは登校を拒否するようになった」

北朝鮮の建設現場では大規模事故が繰り返し起きており、その危険度の高さは国民なら誰もが知っているのだ。

このような課題は、金正恩氏が政権についてから増えており、1カ月平均で10中国元の国家対象建設資金の徴収のみならず、ウサギの皮、古鉄、ゴム、古紙の供出を求め、現物を出せない生徒には現金を支払うように強いている。

そんな学校へ行くのを嫌がり、登校せずに自宅でカツラや帽子を作る内職をする生徒が増えているというのが情報筋の話だ。

北朝鮮では本来、幼稚園から大学に至るまですべての教育が無料で受けられることになっている。しかし、現実は違う。教科書も、制服もすべて有償で、それらもまともに配給されない。

こんな北朝鮮の現状を嫌い、家庭教師や塾で教育を受ける生徒もいれば、脱北して韓国で教育を受けようとする人も増えている。


[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

パラマウント、ワーナーに敵対的買収提案 1株当たり

ビジネス

インフレ上振れにECBは留意を、金利変更は不要=ス

ワールド

中国、米安保戦略に反発 台湾問題「レッドライン」と

ビジネス

インドネシア、輸出代金の外貨保有規則を改定へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中