最新記事

ヨーロッパ経済

イタリア連立政権の樹立でユーロ離脱はどうなる

2018年6月8日(金)14時00分
フェリックス・サーモン

ポピュリスト政党「五つ星運動」のディマイオ党首(中央)はようやく連立政権を発足させた Salvatore Laporta-Kontrolab-Lightrocket/GETTY IMAGES

<大き過ぎてつぶせないし、救済もできないイタリア――破滅への道を歩む選択肢は市場が認めない?>

イタリアでは46年以降、64の内閣が誕生した。内閣の「平均寿命」は410日間。直近のジェンティローニ内閣は530日以上続いたから、そろそろ交代の時期ではあった。

3月の総選挙では、戦後の内閣を担った政党全てが敗北。ポピュリズム政党「五つ星運動」が第1党となり、極右「同盟」と連立政権を樹立するかと思われた。

だが両党がユーロ懐疑派のパオロ・サボーナを財務相に充てようとしたところ、マッタレッラ大統領が承認を拒否し、別の人物の任命を求めた。同盟側がこれに難色を示したため、再選挙の実施もやむなしと思われた。

しかし5月31日、事態は急展開する。マッタレッラは、五つ星と同盟の推すフィレンツェ大学教授のジュセッペ・コンテを次期首相に再指名。コンテの閣僚人事も承認した。財務相にはトルベルガタ大学(ローマ)の教授であるジョバンニ・トリアが就任。こうして2つのポピュリズム政党による連立政権が発足し、政治の空白に幕が下りた。

だが、イタリアをめぐる懸念が消え去ったわけではない。その1つがユーロ離脱の可能性だ。

イタリアの有権者は分裂が著しいが、ユーロ支持派は依然として多い。彼らはエリート政治家を嫌うかもしれないし、EU本部にあれこれ言われるのを嫌うかもしれない。あるいはポピュリスト政党に投票するかもしれない。だがユーロ離脱に大きく振れることはない。ポピュリストたちも、それを知っている。

しかし、イギリスのEU離脱を誰が本気で予想していただろう? もし予期せぬことが現実のものになったら? 最近の市場の動きは、イタリアがユーロ圏を離脱したらどうなるかを明確に示している。

国債利回り急上昇の意味

指標として注目されるのは、2年物国債の利回りだ。今年初めはマイナス0.137%。イタリア国債を1000ユーロ買えば、2年後に約997ユーロ戻ってくるということだ。イタリア国債の格付けは非常に高いから、投資家は利回りがマイナスでも極めて安全な場所にお金を預けられるだけで満足だった。

利回りは総選挙でのポピュリスト政党の勝利を受けてわずかに上昇したが、マイナスであることに変わりはなかった。五つ星と同盟が5月初めに正式に連立樹立に同意してからも、2年債の利回りはマイナス0.151%だった。だが5月29日には一時、10〜12年のユーロ危機以降の最高値を大幅に更新するプラス2.83%に達した。ユーロ離脱の可能性がわずかでもあると投資家が見なした証拠だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

カナダ中銀、利下げペースは緩やかとの想定で見解一致

ワールド

米制裁が国力向上の原動力、軍事力維持へ=北朝鮮高官

ワールド

韓国GDP、第1四半期は前期比+1.3% 市場予想

ビジネス

バイオジェン、1―3月利益が予想超え 認知症薬低調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中