最新記事

北朝鮮情勢

トランプ氏は北に譲歩したのか?

2018年6月4日(月)12時40分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

その彼が5月29日付のコラム「トランプみごと!――金正恩がんじがらめ、習近平タジタジ」を「まさに、その通りだ!金正恩はやがてアメリカにシフトしていく」と評価してくれたので、この線は不変のまま続いていくものと判断している。

ノーベル平和賞を狙っているトランプ?

余談になるが、筆者は2017年7月に出版した(ということは同年5月に執筆した)『習近平vs.トランプ  世界を制するのは誰か』(p.59)で、「トランプ大統領は金正恩と会談してノーベル平和賞を狙っているのではないか」と書いた。今では少なからぬアメリカ人がそのように言い始めているようだが、1年前にこれを予想した人がどれだけいたのか、調べていないので分からない。

筆者は興味をそそる指導者あるいは政治家の心理を読み解いていく作業が好きだ。薄熙来(元重慶市書記)に関しては『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』で投獄されるまでの彼の人生とイギリス人を殺害したその妻・谷開来の心理を追跡したし、『毛沢東 日本軍と共謀した男』では、毛沢東の人生や心理を、日中戦争当時を中心に追いかけた。

習近平国家主席との対比においてトランプを描く際も、キッシンジャーとの関係を中心に追いかけていくと、「ああ、この人はノーベル平和賞を取ろうと狙っているのかもしれない。だから『なんならキム・ジョンウンとハンバーガーでも食べながら、お喋りしてもいい』と何度も言ったにちがいない」というところに行きついてしまったのである。

金正恩の心理を読み解くには情報と知識が不十分だが、少なくとも中朝関係の真相という視点から分析するなら、彼はアメリカと蜜月関係になりたいと望んでいるということだけは推測できる。トランプ氏が大統領でいられる時期がいつまでかによって違ってくるが、少なくとも彼(金正恩)は米朝蜜月を演じようとするだろう。それは米朝両国にとって「中国牽制」という意味で重要なファクターなのである。

追記:トランプ大統領が今年秋の中間選挙までに何かしらの実績を残したかったという側面は否めないし、また第1回目の米朝首脳会談を「まずは知り合いになるために」と位置付けてもいいと発言して、安倍首相が強く否定してきた「対話のための対話」を肯定した。さらにアメリカが出資せずに主として日中韓などの周辺諸国が払えという問題発言もしている。こういった多くの他の側面に関しては、別途テーマを設定した時に論じるつもりだ。ここでは「CVID」から「段階的」への転換のみに関して、北朝鮮の内情と制裁解除という観点から分析した。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮

ワールド

トランプ氏誕生日に軍事パレード、6月14日 陸軍2

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中