最新記事

軍用イルカ

ウクライナへの愛国心でイルカが自殺!? クリミアで翻弄されるイルカたち

2018年5月25日(金)12時20分
松丸さとみ

写真は米海軍で訓練されていたイルカ-U.S. Navy photo

ウクライナへの愛国心でハンガーストライキ?

ウクライナがかつて軍用に訓練していたイルカが、ロシアの手に渡った際に愛国精神からハンガーストライキを起こして餓死した──このほどクリミアのウクライナ高官がこんな話を明らかにした。

イルカのハンガーストライキについて語ったのは、クリミアにおけるウクライナ大統領特別代表、ボリス・バビン氏。英紙デイリーメールによるとバビン氏はウクライナのニュースサイトObozrevatelに対して、ウクライナ軍が訓練していたイルカの死について最近知らされた、として次のような話を明らかにしたという。

クリミア半島南西部に位置するセバストポリで、ウクライナ海軍は複数頭のバンドウイルカを飼育していた。このイルカたちは、敵の船に爆弾を仕掛けたり、頭部に銃をつけてダイバーを攻撃したり、といった軍事作戦を遂行できるように訓練されていたものだ。しかし2014年のロシアによるクリミア併合で、イルカと訓練設備は、他の軍事施設とともにロシア政府のものとなった。

バビン氏は、ロシアの手に渡ったイルカたちが、ウクライナへの愛国精神から「ロシア人侵略者」の指示に従うことを拒否し、餌を食べることも拒否したと説明。ハンガーストライキをした末に死んだ、と話した。

「イルカは犬のように忠実」

イルカが愛国精神を持つかどうかは不明だが、実際に食べ物を拒否するといったことはあるようだ。

本件を伝えた記事で英紙ガーディアンは、「イルカが犬のように忠実である様子はこれまでも観察されている」として、バビン氏の主張がまったくの絵空事ではない可能性を示唆している。例えばイルカは、過去に会ったことのある人物に向かって熱心に泳ぎ寄って行ったり、飼育されているイルカの場合は同じ水槽にいた仲間が死んだ後に餌を食べなくなったり、ということがあるらしい。さらには、心を通わせあった人間と引き離された後、意図的に呼吸を止めて「自殺」したイルカがいたことが知られている。

一方でウクライナの主張について、ロシア議会のドミトリー・ベリック下院議員(クリミア選出)は真っ向から反論している。ウクライナは2014年以前にすでにイルカの軍事利用をやめており、海軍で使われていた戦闘用イルカはすべて、商業施設に売却されたか自然死したはずだ、と主張。バビン氏の発言は単なるプロパガンダと噂だと一蹴している。

デイリーメールを含む複数のメディアは、結局のところイルカがどうなったのかは分からない、と伝えている。ただ当時の報道を見ると、2014年3月26日付の英紙テレグラフは、ウクライナ政府が2月に、「コスト削減のため、イルカは野生に返すか民間組織に売却する」という意向を発表したものの、3月にクリミアのウクライナ軍事施設がロシアに引き渡される際には、イルカも一緒だったと伝えている。その他の複数の報道を見る限りは、ウクライナのイルカたちが一旦はロシアの手に渡ったことは間違いないようだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

来年のIPO拡大へ、10億ドル以上の案件が堅調=米

ビジネス

英中銀、5対4の僅差で0.25%利下げ決定 今後の

ビジネス

ノバルティスとロシュ、トランプ政権の薬価引き下げに

ビジネス

中国の鉄鋼輸出許可制、貿易摩擦を抑制へ=政府系業界
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中