最新記事

テロ対策

なぜイタリアはテロと無縁なのか

2018年5月24日(木)16時20分
アンナ・モミリアーノ

今年2月にミラノの反ファシズムデモを警備する警察部隊 Massimo Pinca-REUTERS

<長年にわたるマフィアとの攻防が過激派のテロ対策に生かされているというが、警察の手柄だと胸を張れない事情も>

イタリア政府に難民認定を申請していたガンビア人が4月、ナポリで逮捕された。この男はテロ組織ISIS(自称イスラム国)に忠誠を誓う動画をメッセージアプリで配信。無差別に通行人をはねる自動車テロを計画していた疑いも持たれている。

この1件が示すように、イタリアにも相当数の過激派が潜入している。にもかかわらず、なぜか重大なテロは起きていない。フランス、ドイツ、イギリスなど他の欧州主要国でテロが相次いでいるのとは対照的だ。

この現象には、安全保障の専門家らも首をかしげている。

政府が万全のテロ対策を取っているからだ――多くのイタリア人はそう胸を張るだろう。だが実情はもっと複雑で、自慢できるような状況ではなさそうだ。

当然ながら、この国の治安当局もテロ封じ込めの努力はしている。ミラノに本部を置くイタリア政策研究所(ISPI)によると、18年1月から3月半ばまでにテロを企てた疑いで国外に追放された外国人は少なくとも27人に上る。

イタリア警察の公安部は3月末から4月初めにかけて一連の手入れを行い、複数の容疑者を逮捕した。ナポリにある「偽造書類工場」と呼ばれる施設も捜査の対象になった。警察によれば、ここで作製された偽造書類は欧州各地に潜むISISのメンバーに提供されていたという。

イタリアの警察は長年、組織犯罪と戦い、極左の「赤い旅団」やネオファシスト・グループなど国内のテロ組織に手を焼いてきた経験も持つ。テロ防止に成功しているのはそのおかげだとの見方もある。

英経済誌エコノミストはこれを「マフィア効果」と名付けた。60年代末から80年代半ばにかけてテロが相次いだ、いわゆる「鉛の時代」に、イタリアの警察と情報機関はマフィアとテロ組織の活動を監視するスキルを徹底的に磨いたというのだ。

組織犯罪を取り締まりやすい法律も整備されている。治安当局による通信傍受が「広範囲にわたって」認められているため、過激派の動きを監視しやすいと、ISPIの上級研究員アルトゥーロ・バルベリは指摘する。

また、フランスやベルギー、イギリスと違って、イタリア在住の過激派の多くは市民権を持たないため、疑わしいとなれば簡単に国外に追放できる。イタリアは植民地が少なかったため、イスラム教徒が多数を占める国から難民がどっと流入するようになったのはここ数年のこと。独立機関の調査によると、イタリアに住む約250万人のイスラム教徒のうち、市民権を取得している人は40%にすぎない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは143円前半へ上昇、米中対立緩和に

ワールド

インドがパキスタンの「テロ拠点」攻撃、26人死亡 

ビジネス

ノボノルディスク、通期予想を下方修正 第1四半期は

ビジネス

中国、対米協議控え金融緩和発表 政策金利引き下げな
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗と思え...できる管理職は何と言われる?
  • 4
    分かり合えなかったあの兄を、一刻も早く持ち運べる…
  • 5
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 6
    「欧州のリーダー」として再浮上? イギリスが存在感…
  • 7
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 8
    首都は3日で陥落できるはずが...「プーチンの大誤算…
  • 9
    「関税帝」トランプが仕掛けた関税戦争の勝者は中国…
  • 10
    ザポリージャ州の「ロシア軍司令部」にHIMARS攻撃...…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中