最新記事

朝鮮半島

「中国排除」を主張したのは金正恩?──北の「三面相」外交

2018年5月2日(水)16時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

そこで毛沢東は「中国人民解放軍」として北朝鮮に派兵するのではなく、「中国人民志願軍」として派兵することにした。志願軍なら「国家」としてアメリカを相手に戦うということにはならないので、のちのちの米中関係への影響を何とか最小限に食い止めておきたかったようだ。もちろん、第三次世界大戦への発展を避けるという意味合いもあった。

そのため朝鮮戦争の休戦協定は、1953年7月27日午前10時に、まず「朝鮮人民軍代表兼中国人民志願軍(中朝連合司令部)」の代表として南日大将(北朝鮮副首相兼朝鮮人民軍総参謀長)と国連軍代表のウィリアム・ハリソン中将(アメリカ陸軍)により署名されたのちに、同日の午後、国連軍総司令官のマーク・クラーク大将(アメリカ陸軍)、中国人民志願軍と中国人民解放軍の最高司令官であった彭徳懐元帥および朝鮮人民軍最高司令官の金日成首相が署名。これにより休戦協定は最終的に発効した。

ただ彭徳懐は、中朝連合軍の副司令官に朝鮮労働党延安派の朴一禹(パク・イルウ)を任命し、北朝鮮の金日成を中朝連合軍の脇役にしたことなどから、中朝関係の悪化は朝鮮戦争勃発時から既に内在していた。

延安派は金日成の政敵だったため、朝鮮戦争が終わると一人残らず粛清を受けている。

この延安派は筆者が1948年に吉林省の長春で食糧封鎖を受けたときに、二重の包囲網である「チャーズ」の門を守備していた軍隊だ。当時、庶民はこの延安派を「朝鮮八路」と呼んでいた(『チャーズ 中国建国の残火』参照)。

筆者は1950年に北朝鮮に隣接する延吉で朝鮮戦争を実体験しているが、北朝鮮問題にこだわるのは、この延安派(『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』のp.110参照)の問題があるからだ。

金政権と、この延安派の根源を知らない限り、中朝関係の真相は分からないし、また今般の南北首脳会談で、なぜ休戦協定から終戦協定への転換過程において「3者協議」という「中国排除論」が出てきたのかも理解できないだろうと思われる。

中朝は新義州経済特別開発区においても衝突

これまで何度も書いてきたように、中国は改革開放後、ともかく北朝鮮に「改革開放をしろ!」とひたすら説得してきた。

金正恩の父親、金正日は改革開放に興味を持ち、その方向に動こうとして、何度も訪中している。

金正日が最初に手掛けたのは北朝鮮と中国遼寧省丹東に隣接する新義州である。2002年9月に新義州の一部を、中国の香港やマカオと同じような「特別行政区」に指定し、経済特別開発区(特区)として改革開放に乗り出そうとした。通貨は米ドル。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米8月小売売上高0.6%増、3カ月連続増で予想上回

ビジネス

米8月製造業生産0.2%上昇、予想上回る 自動車・

ワールド

EU、新たな対ロ制裁提示延期へ トランプ政権要求に

ワールド

トランプ氏、「TikTok米事業に大型買い手」 詳
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 8
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 9
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中