最新記事

カナダ

イケメン首相トルドーの人気に陰り

2018年4月13日(金)15時40分
ジョナサン・ケイ

「ただの若造」との見方も

2つ目は、それよりもはるかに重大な失態だ。首相の訪問中にニューデリーのカナダ高等弁務官事務所で催された夕食会に、シーク教過激派のジャスパル・アトワルが招待されたのである。アトワルは86年に起きたカナダ訪問中のインド閣僚の暗殺未遂事件に関わり、カナダの刑務所で5年間服役した人物だ。

夕食会の前にアトワルの招待は取り消されたが、カナダ政府はこの一件で責任逃れを画策し、とんだ茶番劇を演じてしまった。トルドーの側近らは当初、与党・自由党のインド系議員ランディープ・サライがアトワルを招待者リストに入れたと主張。サライ1人に責任を押し付けて幕引きを図ろうとした。

その後、首相の国家安全保障担当顧問が、インド政権内の一部分子がトルドーに恥をかかせるためにアトワルをリストに入れたと、何の根拠もなくメディアに漏らした。当然ながらインド政府はこれに激怒。カナダの国民も信じなかった。この茶番劇は、トルドーとインドのナレンドラ・モディ首相の会談が1週間の訪問の最終日にようやく行われたことを内外に印象付ける結果となった。

エルボーゲートと違って、インド訪問のまずいお膳立てが大きな痛手となったのはなぜか。カナダの有権者はトルドーを支持しつつも、彼とその取り巻きに漠然とした不信感を抱いてきた。今回の一件でその感情が表面化したとみていい。

不信感の1つはトルドーその人に対するもの。首相の重責を担うにはまだ政治経験が足りない、パーティー好きの若造ではないかという見方があった。

トルドーは15年の総選挙でほぼ完璧な選挙戦を展開し、そんな見方を吹き飛ばした。さらに就任後は世界中にポピュリズムの嵐が吹き荒れるなか、分別ある冷静な姿勢で国政の舵を取り、内外の期待を一身に集めた。何よりもドナルド・トランプ米大統領の保護主義的な「貿易爆弾」の信管を慎重に抜こうとする姿勢が高評価につながった。

だが、インドの民族衣装を着て、ダンスのパフォーマンスまで披露したのは間が悪過ぎた。折しも、一部の外国メディアが彼をコケにし始めていたからだ。

大打撃を与えたのは英デイリー・メールの記事だ。カナダの首相は「世界一政治的に正しい政治家なのか」という見出しで、おバカなトルドーのモンタージュ写真を掲載。タブロイド紙の記事とはいえ、この写真はカナダのソーシャルメディアで広く拡散され、首相のイメージダウンにつながった。

さらに「テロリスト招待」疑惑で、有権者の心にくすぶっていたもう1つの疑念が噴き出した。こちらはトルドーだけでなく、自由党全般への疑念だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

インド貿易赤字、5月は縮小 輸入が減少

ワールド

イラン、NPT脱退法案を国会で準備中 決定はまだ

ワールド

米上院議員が戦争権限決議案、トランプ氏のイラン軍事

ビジネス

NTTドコモ、 CARTAHDにTOB 親会社の電
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中