最新記事

北朝鮮

北朝鮮「公開処刑」も暴く衛星画像分析から韓国が手を引いた!?

2018年4月11日(水)17時40分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

人道問題は金正恩の最大の弱点となる KCNA-REUTERS

<北朝鮮の動向を衛星画像で分析する「38ノース」への資金提供を韓国政府が打ち切ったのは、人権問題の追及を嫌がる金正恩に気兼ねしたから?>

米ジョンズ・ホプキンス大国際大学院(SAIS)傘下の韓米研究所(USKI)が、5月11日に閉鎖されることになった。USKIは、衛星画像の分析などで北朝鮮の核・ミサイル開発の動向を追跡してきたウェブサイト「38ノース」の運営で知られてきた。

USKIが閉鎖されることになったのは、これまで年間20億ウォン(約2億円)余りを支援してきた韓国政府系の韓国対外経済政策研究院(KIEP)が、資金提供を打ち切ると決めたためだ。

このニュースに接した当初、筆者は「38ノース」が危機にさらされるものと思った。しかし、それは早合点だった。同ウェブサイトは米国のカーネギー財団とマッカーサー財団からも資金提供を受けており、独自に運営を継続できるという。

しかし外形的には、韓国政府はいったん、「38ノース」から手を引く形になってしまった。韓国は最近、北朝鮮に対する人権侵害の追及で「弱腰」になっている。金正恩党委員長がこの問題に言及されるのを嫌っており、北朝鮮メディアがけん制の論陣を張っているためだ。

参考記事:あの話だけはしないで欲しい...金正恩氏、トランプ大統領に懇願か

衛星画像の分析は、核・ミサイル開発の追跡でのみ有効なわけではない。人権問題においても非常に大事だ。実際、これまでにも公開処刑の現場が捕捉されたこともある。

参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」...残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認

さらに、過去に北朝鮮が行った大量殺戮の証拠となる、大量埋葬地を探す上でも必要な手法だ。

この情報こそは、金正恩政権にとって最大の弱点になる。核兵器は今から放棄することができるが、過去の人道犯罪は「なかったこと」に出来ないからだ。

KIEPが資金提供を打ち切ると決めたのは、USKI側の活動内容や資金使途に問題があったためであるとも言われる。事実ならば、是正が必要だろう。

しかし、今このタイミングで打ち切りの決定を下すのは、果たして適切と言えるだろうか。せめて、「38ノース」に対しては別途支援を行うなどの措置を、同時に講じるべきではなかったのだろうか。

最近の韓国政府の姿勢を合わせて考えたとき、「北朝鮮から問題視される前に、さっさと手を引きたかったのではないか」などと勘ぐっても見たくなる。

どのような形で北朝鮮と対話を進めるにせよ、彼らの言っていることと行動が合致しているかどうかを検証する手段は必要になる。また、北朝鮮と対話を進める韓国も、周囲から高い信頼性を持たれていなければならない。

今回のUSKIの閉鎖、そういった点に悪影響を与えないことを望む。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア疑惑捜査のモラー元FBI長官死去、トランプ氏

ビジネス

中国首相、フォーラムで一段の経済開放約束 日本企業

ワールド

停戦後に機雷除去で自衛隊派遣検討も、ホルムズ海峡巡

ワールド

ソフトバンクG、米オハイオ州にAIデータセンター建
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    「カメラの目の前」で起きた爆発の瞬間...取材中の記者に、イスラエル機がミサイル発射(レバノン)
  • 3
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 ──「成功」が招く自国防衛の弱体化
  • 4
    スウェーデン次期女王ヴィクトリア皇太子、陸軍訓練…
  • 5
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    人気セレブの「問題ビデオ」拡散を受け、出演する米…
  • 8
    「胸元を強調しすぎ...」 米セレブ、「目のやり場に…
  • 9
    「筋力の正体」は筋肉ではない...ストロングマンが語…
  • 10
    BTSカムバック公演で光化門に26万人、ソウル中心部の…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 4
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 9
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 10
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中