最新記事

北朝鮮情勢

訪中から始まる北朝鮮の米中離間工作

2018年3月30日(金)20時40分
トム・オコーナー

トランプが金との首脳会談に応じる意向を明らかにしたことで、金は中国との駆け引きにも勝利したことになると、ユンは指摘する。「金正恩にすれば、自ら中国に出向くのも気にならないほどの戦略的な勝利だった」

2017年の軍事的な成果と2018年の外交的な成功を経て、金は東アジアの各国首脳に対し「自分を独裁者から権力を受け継いだ若造ではなく、同等の指導者として扱うよう求めている」と、ワシントンのシンクタンク「ウィルソン・センター」の研究員ジーン・リーは言う。

「北朝鮮の若き指導者・金正恩が世界の舞台に飛び出す劇的な場面を、われわれは目の当たりにしている」と、リーは言う。「北朝鮮は『分断と征服』というゲームの巧者。なかでも金は、韓国、アメリカ、中国などの主要プレーヤーを動かすことに長けている」

一方、トランプは3月28日のツイートで、「金正恩委員長は国民と人道のため、正しいことを行う十分な可能性がある」と一定の期待を示しながらも、「最大限の制裁と圧力は何としても続けなければならない」とクギを刺した。

金の本音はどこにあるのか。北朝鮮の国営メディアの報道を慎重に分析すると、北朝鮮は以前から自国の兵器は自衛用だと主張し、条件次第では核兵器などの開発を止めてもいいとさえほのめかしていた。

核開発問題がかすむ?

ただしその条件には、少なくとも米朝関係の正常化や経済制裁の解除、半世紀以上に渡って停戦状態にある朝鮮戦争に終止符を打つ平和条約の締結などが含まれるだろうと、専門家らは指摘する。

もっとも、国際社会を舞台にした金の危険なチェスゲームによって、核開発問題は米中の対立関係というもっと大きな影に覆われてしまうかもしれない。

金は人気取りも巧みな指導者だ。国内の視察や訪中の際に夫人の李雪主(リ・ソルジュ)を伴って現われるのは金が初めてだし、2月のピョンチャン冬季五輪を機に金王朝の一員として初めて訪韓した妹の金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長はアイドル並みの注目を浴びた。

今後は世界の2大巨頭であるトランプと習の間で注意深くバランスを取っていかなければならない金は、そうした魅力を駆使しながら米中の利害対立を巧みに利用しようとするだろう。

「米中対立が先鋭化すれば、両国は北朝鮮を味方につけようとするかもしれない」と、ユンは言う。「そうなれば、非核化は自ずと後回しになるだろう」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「ウクライナ存続は米にとって重要」、姿勢

ワールド

IMF、中東・北アフリカ成長予想を下方修正 紛争激

ビジネス

米国株式市場=ほぼ横ばい、経済指標や企業決算見極め

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米指標やFRB高官発言受け
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 9

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中