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電撃訪中

中朝首脳会談を両者の表情から読み解く

2018年3月30日(金)17時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

これが、習近平の「最大級の笑顔の恐ろしさ」、あるいはキーポイントと言っていいだろう。

夫人を習近平に紹介するときの緊張と戸惑い

金正恩は、宴会が始まる前に李雪主(リ・ソルジュ)夫人を習近平に紹介しようとしたときに、よほど緊張したのだろう。まず習近平と握手を交わし、居並ぶカメラマンの方を向こうとしたのだが、隣にいる自分の妻を「滞りなく」習近平に紹介しようとして、一瞬、目が泳いだ。習近平とともにカメラを見なければならない場面だったが、右隣にいる妻をスマートに習近平に紹介することに気持ちが集中していたのだろう。カメラを見るべき目線を戸惑うように自分の妻の方に向けて、慌てて習近平に紹介した。習近平がにこやかに李雪主夫人と握手すると、金正恩は「ああ、よかった......」という表情でニッコリと笑ったのである。

初めての外交デビュー。

よほど習近平に失礼がないように気を配っていたのだろう。

もっとも、スイスに留学していただけあって、西側の文化には慣れているはずだ。夫人を伴っての訪中などは、父親の金正日(キム・ジョンイル)も祖父の金日成(キム・イルソン)もやったことがない。非常にフォーマルな外交を、こういう風にこなすことができるということを、習近平に見せたかったものと思う。習近平との接触を通して、世界、特にアメリカに見せたいという気持ちもあったにちがいない。

習近平との会談を果たした金正恩は、これでようやく南北首脳会談の日程を決めることができると思ったのだろう。帰国した2日後の3月29日、南北首脳会談は4月27日に行うことが決まった。これからは金正恩外交が始まることになるのだろうか。

ところで、なぜこのタイミングで金正恩は訪中したのかに関しては、3月27日のコラム「金正恩氏、北京電撃訪問を読み解く――中国政府高官との徹夜の闘い」でも少し触れたが、追って、もう少し深く分析したいと思っている。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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