最新記事

北朝鮮

金正恩がミサイル発射施設をリゾートに作り替えている

2018年3月14日(水)11時30分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

2016年6月に弾道ミサイル火星10号の発射実験成功を喜ぶ金正恩 KCNA-REUTERS

<米朝首脳会談以降に向けた布石か――東海岸・元山の弾道ミサイル施設の跡地で高級リゾートの建設を始めた金正恩の思惑とは?>

北朝鮮が弾道ミサイルの発射実験を行った東海岸・元山(ウォンサン)の空港一帯で大規模な工事を行っていることがわかった。リゾート施設の建設を行っているものと見られる。米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)が報じた。

VOAは、民間衛星企業のプラネットが11日に撮影した衛星写真を元に分析した結果、一帯の海岸に、半円形の構造物など建物の基礎と思われるものが確認されたと報じた。また、工事用のトラックが行き来しており、青い屋根のプレハブ、工事中の道路なども確認された。工事は今年1月20日前後に始まったものと見られると報じている。

ここは、中距離弾道ミサイル「火星10」(ムスダン)や、短距離地対艦ミサイルの発射実験を行っていた場所だ。昨年3月、運搬中だったミサイルが爆発する事故が起きている。

<参考記事:【画像】「炎に包まれる兵士」北朝鮮 、ICBM発射で死亡事故か...米メディア報道

しかし、ミサイル車両を停車するコンクリート発射パッドも、長射程砲が据えられていた痕跡も消えている。

衛星写真の分析を専門とする米スタンフォード大学のニック・ハンセン客員研究員はVOAの取材に、これは高級リゾート施設の建設を行っていることを示していると述べた。

金正恩党委員長は、避暑地として知られる元山を国際的な観光地に育成するため、「元山葛麻(カルマ)海岸観光地区」として指定し、国際空港やスキー場など、様々なリゾート施設を建設している。彼がこの地域の開発に並々ならぬ熱意を注ぐのは、次のような理由からだと言われている。

「金正恩氏の生まれた場所は公表されていないが、元山の金正日氏の別荘だという説がある。地元でも『金正恩氏は元山沖の島で生まれた』との噂を誰もが聞いている。それで金正恩氏は、馬息嶺スキー場、国際空港などを建設し、国際観光特区にしようとしているというのだ」(RFAの情報筋)

金正恩氏は、新たな外貨収入源として観光産業を活性化させ、2017年には100万人の観光客を受け入れることを目標として掲げた。しかし、自らが行った核・ミサイル実験が国際社会の制裁を招き、観光産業の育成は半ば頓挫した状態となっている。

また、北朝鮮を旅行中だった米大学生のオットー・ワームビアさんが当局に拘束され、不可解な死を遂げたことも、間違いなくマイナスに働いている。

<参考記事:「性拷問を受けた」との証言も...北朝鮮は外国人に何をしているのか

ここに来てリゾート施設の工事を始めたのは、今年の4月末と5月に相次いで予定されている南北首脳会談、米朝首脳会談以降、観光産業を本格的に再開させることを念頭に置いたものと思われる。中長期的には、韓国人観光客の懐を狙った戦略とも言えよう。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円、対ユーロで16年ぶり安値 対ドル

ビジネス

米テスラ、新型モデル発売前倒しへ 株価急伸 四半期

ワールド

原油先物、1ドル上昇 米ドル指数が1週間ぶり安値

ビジネス

米国株式市場=続伸、マグニフィセント7などの決算に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 10

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中