最新記事

一帯一路

中国の一帯一路 積極的な発展途上国向け開発がもたらす影とは

2018年1月30日(火)16時54分

1月26日、中国が推し進める発展途上国向け開発は、人権や環境を擁護する非営利団体(NGO)の役割を低下し、彼らが伝統的に果たしてきた乱開発に対するチェック機能を困難にさせていると、NGO関係者は警鐘を鳴らす。写真は一帯一路フォーラムで演説する中国の習近平国家主席。北京で昨年5月代表撮影(2018年 ロイター)

中国が推し進める発展途上国向け開発は、人権や環境を擁護する非営利団体(NGO)の役割を低下し、彼らが伝統的に果たしてきた乱開発に対するチェック機能を困難にさせていると、NGO関係者は警鐘を鳴らす。

中国は、米国が第2次世界大戦後に推進したマーシャルプラン以降で最大級となる海外開発計画に着手。約1000億ドル(約10.8兆円)を超えるシルクロード経済圏構想「一帯一路」を掲げ、アジアや欧州、アフリカをつなぐ道路や鉄道、港などを建設するインフラ投資を進めている。

だが、開発金融に社会的・環境的な条件をつけることで、NGOの影響力を高めることの多い西側の貸し手とは異なり、中国側の貸し手は不干渉のアプローチを取っている、と世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で取材したNGO幹部などは語る。

「中国による開発は、注視が必要な状況であることは確かだ」と、グリーンピース・インターナショナルのジェニファー・モーガン事務局長は言う。「世界各地で融資や資金供給をする際の、彼らの基準は何なのか」

また、ヒューマン・ライツ・ウォッチのケネス・ロス代表は、中国のアプローチついて非道徳的だと述べ、支援や投資に「人権の尊重が条件づけられて」いたときに各国が感じていた経済的プレッシャーを消し去ってしまったと語る。

中国が支援する金融機関は、世界銀行や他の西側諸国が支援する開発機関とは異なるアプローチを取っている。

例を挙げると、世界銀行は環境上の理由から、石炭火力発電所の新設には強いバイアスをかけるが、「一帯一路」計画に資金供給する中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)はそれほど厳しくない。

ヨアヒム・フォン・アムスバーグAIIB副総裁はダボスでロイターに対し、再生可能エネルギーへの移行を奨励しているが、『石炭はダメ』というサインを前面に押し出したくはないと語った。

「われわれはプロジェクト1つ1つを、加盟国に大幅な政策変更を促す手段として見ていない」と同副総裁は説明。「それは開発金融の世界にとって歓迎すべきことだ。なぜなら、それによって行き過ぎや、個々の投資プロジェクトに集中し過ぎるリスクを回避できると思うからだ」

世界銀行のような機関による融資は長い間、富裕国が借り手に対し、社会的大義の履行を改善するよう圧力をかける方法として用いられてきた。その一環として、非営利団体は監視役を担い、ダム開発のような問題について方針変更に一役買い、人権を主張してきた。

しかし、ポピュリズムが台頭し、トランプ大統領率いる米国が、気候変動と同様に、人権などの問題でも鳴りを潜めるか、あるいは政策を転換させており、逆風が強まってきたと、NGO関係者は口をそろえる。

「さまざまな国で、市民活動の余地が減り、政府に以前ほど声が届かなくなっていることを心配しているかって。全くその通りだ」と、前出のモーガン氏は語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮が弾道ミサイル、日本のEEZ外に落下したとみ

ワールド

米主要空港で最大10%減便へ 政府閉鎖長期化で 数

ワールド

高市政権にふさわしい諮問会議議員、首相と人選=城内

ワールド

トランプ氏「イランが制裁解除を打診」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中