最新記事

米中関係

トランプの貿易戦争が始まった

2018年1月25日(木)19時40分
エドワード・オルデン(米外交評議会〔CFR〕上級研究員)

トランプ政権がその理論を具体的な成果に変えられるか否かは、これからの数週間にかかっている。NAFTA再交渉に挑むトランプ政権の手法は、今ところ容赦ない。アメリカはカナダとメキシコに対して、自動車などを対象にした原産地規制の見直しや政府調達の開放、加盟国間の紛争解決の仕組みの廃止など、数多くの変更を要求している。カナダやメキシコの生産拠点をアメリカに回帰させる、という意図があるのは明白だ。

最初の一撃としては、これらの要求には相手国に「衝撃と畏怖」を与える効果があった。だが今週は、3カ国すべてが多少なりとも勝利を宣言できる現実的な妥協点を模索しなければならない。トランプ政権にはそういう交渉の準備ができているのだろうか。

対中貿易はどうか。米経済界は、中国に投資するアメリカ企業に対して技術移転を条件に付ける中国の高圧的な態度に苛立ちを強めており、トランプ政権はその強い支持を集めている。だが、トランプ政権がWTOのルールに違反するような対中制裁を発表すれば、その支持もたちまち衰えるはずだ。

元凶はトランプのノスタルジア

トランプ政権は不幸にも、「アメリカを再び偉大にする」というスローガンに込めたトランプのノスタルジアに捕らわれているようだ。アメリカが世界唯一の経済大国で、一方的に他国に対米黒字削減を押し付けることができていた時代はとうに過ぎ去ったというのに。

そのノスタルジアは、USTRが1月19日に発表した年次報告書に驚くほどはっきり表れていた。そこには、「アメリカが中国のWTO加盟を支持したのは誤りだった」とある。「中国の市場開放と市場原理に基づく貿易促進につながらなかった」からだという。

これは歴史の歪曲というものだ。2001年の中国のWTO加盟に至るまでの長くて困難な交渉の経緯を知る人なら、当時のアメリカがいかに強引だったか知っている。それに、中国ほど巨大で経済的に重要な国をWTOの枠組みの外に留まらせておくのは、もはや現実的ではなかったのだ。

中国の市場開放に失敗したのは、共和党と民主党の米政権がその後の対応を怠ったからだ。

この重大な転機に際し、ホワイトハウスの職員は前向きな発言をしている。ある米政権高官は1月19日に報道陣に対し、アメリカは「NAFTAと米韓FTAで良い結果」に落ち着くことを望んでおり、WTOについては中国の台頭に対応できるようにするための「本気の改革」を望む、と言った。どちらとも、なんとしても必要だ。

だがアメリカがその両方を実現するには、トランプ政権が強硬な姿勢や一方的な言動をやめ、カナダやメキシコ、日本、EU、韓国などの同盟国と連携する方法を見つけ、現実的かつ多国間の貿易ルールを確立するしかない。かつてなくバランスの取れた貿易ルールと相応の結果が求められる新時代に突入した、というトランプ政権の見解はそれ自体、正しい。

だがアメリカがそれを実現するには、友人の助けが必要だ。

(翻訳:河原里香)

This article first appeared on the Council on Foreign Relations site.

Edward Alden is the Bernard L. Schwartz senior fellow at the Council on Foreign Relations (CFR), specializing in U.S. economic competitiveness. He is the author of the new book Failure to Adjust: How Americans Got Left Behind in the Global Economy.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

キーウ空爆で12人死亡、135人負傷 子どもの負傷

ビジネス

米PCE価格、6月前年比+2.6%に加速 関税影響

ワールド

米、EU産ワインと蒸留酒の関税15%に 8月1日か

ワールド

トランプ氏、メキシコとの貿易協定を90日延長 新協
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 9
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中