最新記事

失踪事件

シルク王ジム・トンプソン失踪の謎解きに終止符? マレーシア共産党による殺害説

2017年12月7日(木)18時20分
大塚智彦(PanAsiaNews)

タイシルクのブランドで知られるジム・トンプソンは第2次大戦中はスパイだった REUTERS

<タイのシルクのブランドで知られるジム・トンプソンは50年前に失踪したまま行方が知れなかったが、新たな証言から殺害説が有力に>

タイのシルク王として知られるジム・トンプソン氏が1967年にマレーシアの山中で忽然と消息を絶った事件から50年の歳月が流れ、未だにその失踪の真相は深い謎のベールに包まれている。しかし、タイの英字紙「ネーション」がこのほど、米記録映画プロデューサーによる謎解きの記事を掲載、複数の証言などからマレーシア共産党によって殺害された可能性が極めて高いことを指摘した。長年のミステリーとされたジム・トンプソンの失踪の謎解きに終止符が打たれることになるかもしれない。

ジム・トンプソンは1906年に米デラウェア州で生まれ、プリンストン大学やペンシルベニア大学で学んだ後米陸軍に入隊、その後米情報機関「中央情報局(CIA)」の前身となるOSS(戦略事務局)に移籍して第2次世界大戦を欧州戦線で過ごした。戦後、東南アジアに異動になりOSSバンコク支局長などを務めながらビジネスとしてタイシルクの製品化を始めた。その一方でプリーディー・パノムヨン首相などと親交を深めるなどタイ政財界にも食い込んだ。

諸説入り乱れた謎解き

そして1967年3月26日、シンガポール人の知人が所有するマレーシア・クアラルンプール北方の高級避暑地キャメロン・ハイランドにある「ムーンライトコッテージ(月光荘)」に滞在中、散歩に出たまま行方不明となった。軍や警察、住民などによる大規模な捜索が行われたにも関わらず、手掛かりも遺留品も発見されないまま事件は迷宮入り。

その結末についてはジャングルでトラに襲われた説からCIAの陰謀論、遭難、自殺、誘拐あらゆるシナリオが取りざたされ、書籍も出版されている。日本でもこの謎の失踪にヒントを得た松本清張の小説『熱い絹』が出版されている。

月光荘はその後「ジム・トンプソンコッテージ」と改称されたが、現在は無人で立ち入り禁止となっているという。

タイシルクのブランド「ジム・トンプソン」は謎の失踪の「効果」もあり、今ではバンコク中心部に店舗を構える一流ブランドとなり、日本人の間でもファンが多いなどビジネスとしては成功している。

マレーシア共産党関係者の証言を発掘

ネーションの記事によると、謎解きを続けているプロデューサーらが2013年に探し当てたシンガポール人の知人経由でテオ・ピン氏という人物に行きついた。このテオ・ピン氏が「実の父親が死の床で自分は昔マレーシア共産党(CPM)の幹部で植民地政府や英軍とも戦ったこと」などと告白したという。その告白で「ジム・トンプソン氏がCPMの最高幹部で当時最重要指名手配されていた人物との接触、面会を試みていた」ことを明らかにしたという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米サステナブルファンド、1─3月は過去最大の資金流

ビジネス

北京市、国産AIチップ購入を支援へ 27年までに完

ビジネス

デンソー、今期営業利益予想は87%増 合理化など寄

ビジネス

S&P、ボーイングの格付け見通し引き下げ ジャンク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中