最新記事

貿易

トランプ政権の輸出企業向け税制優遇、EUと貿易摩擦の火種に

2017年12月24日(日)20時22分

 12月21日、米議会が可決した税制改革法案に含まれる輸出企業への税制優遇措置は、WTOのルール違反のように見える。このため法律専門家は、EUとの大きな貿易紛争を引き起こす公算が大きいと警鐘を鳴らしている。写真はEU旗。ロンドンで18日撮影(2017年 ロイター/Toby Melville)

米議会が可決した税制改革法案に含まれる輸出企業への税制優遇措置は、世界貿易機関(WTO)のルール違反のように見える。このため法律専門家は、欧州連合(EU)との大きな貿易紛争を引き起こす公算が大きいと警鐘を鳴らしている。

いくつかの米企業にとって今回盛り込まれた優遇措置は、米欧間で最近数十年における最大規模の紛争につながり、2006年に廃止された輸出優遇税制(FSC税制)の2倍の恩恵にあずかれるかもしれない。

この「海外由来無形資産所得(FDII)向け優遇税制」は、新たな法人税率が21%になるのに対して、約13%の税率が適用される。法案で「無形資産所得」の定義は明らかでないものの、特許や商標、著作権、ノウハウなどから発生する所得と理解されている。

ロイターが過去の企業の年次報告や説明資料などを分析したところ、マイクロソフトやウォルト・ディズニー、スターバックス、オラクル、バンク・オブ・アメリカといった大手企業は、数十億ドルを節税できる可能性もある。

貿易データからすると、米企業はソフトウエア、技術、特許権などの無形資産を毎年数千億ドル輸出しているためだ。

しかし法律専門家や欧州連合(EU)欧州委員会は、FDII向け優遇税制が輸出補助金に当たり、米企業を欧州企業に対して競争面で有利にする措置だとみている。

ブリュッセルの法律事務所VVGBのWTO専門家フォルカート・グラアフスマ氏は「われわれはFSC税制の焼き直し版に直面しているようだ。米国は学習していない。この提案は明らかに現行のWTOのルールと慣行に違反している」と述べた。

欧州委は、米製税改革法案可決前の段階でムニューシン財務長官宛てに書簡を送り、FDII向け優遇税制がWTO協定と矛盾すると指摘。「税制改革案には欧米間の貿易・投資フローに深刻な打撃を与えるリスクをはらんだ要素が含まれる。これを避けるのが共通の利益になるとわれわれは考える」と訴えた。

18日公表の米国の税・法律専門家十数人による調査報告でも、FDII向け優遇税制はWTO協定の履行義務違反になる可能性が大きいとの見解が示された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 6
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 7
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 8
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中