最新記事

汚職事件

インドネシアの巨大汚職事件、事故偽装までして逃げ回った主役の国会議長ついに逮捕

2017年11月21日(火)16時26分
大塚智彦(PanAsiaNews)

議長の代理人は、頭部に包帯を巻き医療器具に繋がれ目を閉じて横たわる議長の写真を公開し「頭部を負傷し重傷だ。こんな状態で出頭も事情聴取もないだろう」と声を荒げた。

国民の多くは過去に入院したり、行方をくらましたりとあの手この手で捜査を逃れてきた議長の行状を熟知しており、今回の交通事故も「入院の口実」と見抜いていた。

警察も事故車には血痕もなく、衝突した電柱も無傷であることを公表するなど「事故」に疑いを抱いていることを印象付けた。

ネットには電柱がベッドに寝ているイラストや仮病で静養する議長の風刺画が多数掲載された。

警察の捜査官も出向しているKPKは、奇手を繰り出して逮捕を回避する議長に「人権侵害」「違法捜査」と後で批判されないように慎重に対応を検討。その結果、議長が担ぎ込まれた病院から医療設備が整っている国立病院に強制的に移送、そこで頭部CTスキャンなどで再検査を実施した。そして複数の医師の診断に加え、医師協会などのセカンドオピニオンも求め「検査の結果、入院を要する容体ではない」とのお墨付きを得た。

そして11月19日深夜、病院で議長を逮捕、身柄をKPK内の拘置施設に移した。

報道陣の前に汚職事件の拘留者であることを示すオレンジ色のチョッキを着せられて表れた議長は頭部の傷に手をやりながら弱々しい声で「まだ痛みは残っているが拘留は受け入れる。しかしKPKの法的措置には抵抗する」と述べ、今後法的措置で対抗する姿勢を示した。国民の間には「往生際が悪い」「情けない」との冷めた声が広がった。

劇的展開の事件捜査も核心へ

今後KPKの議長に対する捜査が進展すれば、議長と関係の深い同党幹部や実業家、官僚にも捜査の手が及ぶとみられている。20日には疑惑がもたれている企業の役員でもある議長の妻がKPKに呼ばれて事情聴取を受けた。

ゴルカル党は近く幹部会を開催して党首交代に踏み切る構えで、ジョコ・ウィドド大統領も「法に従って捜査に応じるように」と議長に求めるなど、KPKの逮捕によって議長はいよいよ追い込まれたことになる。

e-KTP汚職事件では2017年4月に担当するKPK捜査官が劇薬物を顔面にかけられ片目を失明する襲撃事件や有力証人が8月に米カリフォルニア州ロサンゼルスの自宅で「自殺」するなど劇的な展開をみせており、背後に大物の関与が当初から指摘されていた。

インドネシアのマスコミは議長が今後、法的措置などで対抗して最後まで捜査に抵抗を続けるのか、観念して洗いざらい自供して汚職に関わったゴルカル党関係者や他党の国会議員、政府高官などの実名を挙げるかどうかが最大の焦点とみて、KPK前で24時間体制の取材を続けている。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米3月新築住宅販売、8.8%増の69万3000戸 

ビジネス

円が対ユーロで16年ぶり安値、対ドルでも介入ライン

ワールド

米国は強力な加盟国、大統領選の結果問わず=NATO

ビジネス

米総合PMI、4月は50.9に低下=S&Pグローバ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親会社HYBEが監査、ミン・ヒジン代表の辞任を要求

  • 4

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 5

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 9

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中