最新記事

アメリカ外交

トランプのアジア歴訪に喜んだ国、戸惑った国

2017年11月16日(木)17時31分

11月14日、米大統領としてこの四半世紀以上で最も長いアジア歴訪を終えたトランプ氏(左)は、フィリピン首都マニラを大統領専用機で後にしたが、今回の訪問を、アジア各国はどのように受け止めたのか。写真右は、中国の習近平国家主席。北京で9日撮影(2017年 ロイター/Damir Sagolj)

米大統領としてこの四半世紀以上で最も長いアジア歴訪を終えたトランプ氏は14日、フィリピン首都マニラを大統領専用機で後にした。この訪問で、アジアの指導者少なくとも2人は、満足感にひたる十分な理由がある。

東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議が開催されたフィリピンで、トランプ氏は、ドゥテルテ比大統領と「偉大な関係」にあると語った。わずか1年前、ドゥテルテ氏は、自身が推し進める麻薬撲滅運動を非難する当時のオバマ米大統領を汚い言葉でののしっていた。

トランプ大統領はまた、カンボジアの独裁的指導者フン・セン首相と握手を交わし、親指を立てるしぐさを見せた。同首相はトランプ大統領について、自国利益を最優先するよう各国に説く同志だと称賛した。

「あなたは私にとって偉大な人だ」と、フン・セン首相は東南アジア諸国の指導者が出席する会合でトランプ大統領にこう語りかけた。

そして、同大統領の「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」政策について言及した。「他国の独立と主権という点において、自身の新しい政策に従って行動すれば、米国は多くの友人を得ることになり、あなたは大いに尊敬され愛される、とお伝えしたい」

しかし、他のアジア指導者にとっては、トランプ氏の独自路線は、程度の差こそあれ、多国間主義や民主主義、そして人権の主唱者だった歴代の米国大統領とは一線を画すものであり、少なからず戸惑いを覚えたに違いない。

日本、韓国、中国、ベトナム、フィリピンの各首都を訪問するなかで、トランプ大統領は、国連制裁を無視して核兵器開発を強行する北朝鮮への圧力を強化するため、一致団結して取り組むよう呼びかけた。

しかし一方で、同大統領は、ベトナムで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の場で、アジアと米国の貿易不均衡を是正することが「アメリカ・ファースト」政策の根幹であり、米労働者を守ることにつながると明言した。

トランプ大統領のこうした見方は、多国間貿易協定を支持するというコンセンサスを覆すものだ。現在、アジア地域でこうした協定の擁護者は中国である。ベトナムではAPEC首脳会議に合わせて、環太平洋連携協定(TPP)に参加する11カ国は、新協定に関する閣僚間の大筋合意内容を正式に発表した。トランプ大統領は、米国民の仕事を守るためとしてTPP不参加を表明している。

ASEAN主要加盟国のある閣僚は、トランプ大統領が推進する2国間協定について、アジアはあまり乗り気ではないとロイターに語った。

「シンガポールのリー首相が指摘したように、米国にとって2国間協定がそれほど魅力的な理由は、まさに米国と1対1の協定を誰も結びたがらない理由にあると言える。2国間では米国にいじめられかねないからね」と、この閣僚は匿名で語った。

「誰がそのようなものに署名したいと思うだろうか」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:米株式ファンドへの資金流入が大幅増、利下

ビジネス

焦点:急成長する中国の太陽光発電、送電グリッドの限

ビジネス

実質賃金は徐々にプラスへ、エネルギーや為替は注視=

ワールド

米欧、鳥インフル対策で畜産酪農家などへワクチン接種
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    カミラ王妃が「メーガン妃の結婚」について語ったこ…

  • 5

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 9

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 10

    胸も脚も、こんなに出して大丈夫? サウジアラビアの…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 5

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 10

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中