最新記事

アメリカ社会

アメリカ献体市場レポート 売られた部位が語るドナーの悲劇

2017年11月10日(金)12時30分

10月25日、ロイターは、米国でいかにたやすく遺体の一部が売買され、それらが医学研究に有用かどうかを検証しようとしていた。入手した部位の1つが、生まれつき難病を患い、24歳の若さで亡くなったコディ・ソーンダースさんのものであることが分かった。写真は、ロイターが入手した部位の検査を行ったミネソタ大学メディカルスクール献体プログラムの責任者、アンジェラ・マッカーサー氏。8月撮影(2017年 ロイター/Craig Lassig)

コディ・ソーンダースさんは1992年、心臓には穴が開き、腎臓は機能していない状態でこの世に生を受けた。複数の先天異常を発症する難病「ヴァーター症候群」と診断された。

コディさんは24歳の誕生日に亡くなった。生前、66回の手術と1700回を超える透析治療を耐え抜いた、と両親は語る。フェイスブックに陽気なセルフィー(自撮り)写真を掲載し、苦しみを隠す日もあった。また、胸の傷に包帯が巻かれた姿で病院のベッドでポーズを取り、耐え難い現実を共有する日もあった。

コディさんは米テネシー州のキャンプ場で、年季の入ったトレーラーハウスに両親と一緒に暮らしていた。2016年8月2日、コディさんは、透析から帰宅する途中で心臓発作を起こし亡くなった。貧しくて埋葬も火葬もできず、両親は息子の遺体を「リストア・ライフUSA」という団体に提供した。この団体は、献体を丸ごと、あるいは部分的に研究者や大学、医療研修施設などに売っていた。

「他に何も手立てがなかった」と、コディさんの父親リチャードさんは語る。

コディさんが亡くなったその月に、リストア・ライフは彼の頸椎を売った。数回のメールのやりとりを経て、300ドル(約3万4000円)と送料だけで取引は成立した。

リストア・ライフが顧客を厳しく審査しているかは不明だ。だが、同社の従業員が顧客の身元をしっかり確認していたなら、頸椎を買ったのがロイターの記者だと分かっただろう。

ロイターは、いかにたやすく遺体の一部が売買され、それらが医学研究に有用かどうかを検証しようとしていた。頸椎のほか、ロイターはその後、リストア・ライフから人の頭部2つを購入。価格はそれぞれ300ドルだった。

こうした取引は、米国で人間の体の一部が驚くほど簡単に売買されている現実を浮き彫りにしている。販売も輸送も全く違法ではない、とこの問題に詳しい弁護士や専門家、政府当局者は言う。移植用の臓器を売ることは違法だが、研究・教育目的で体の一部を販売することは、ほとんどの州で全く合法だという。通常は年齢確認が必要なインターネットでのワイン購入の方が厳しく管理されている。

法的かつ倫理的に、そして安全面を考慮するため、ロイターは購入前にミネソタ大学メディカルスクールで献体プログラムの責任者を務めるアンジェラ・マッカーサー氏に助言を求めた。同氏は直ちにロイターが購入した頸椎と頭部を預かり、同スクールで保管して検査を行った。

いとも簡単に遺体の一部を買うことができ、リストア・ライフが適切な配慮を怠っていることに困惑している、とマッカーサー氏は話す。

「まるでワイルドウエスト(開拓時代の米西部)のようだ」と同氏は言う。「誰もがこのような検体を注文でき、目的が何であれ、自宅に配送してもらうことができるなんて」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ガザ停戦維持に外交強化 副大統領21日にイスラ

ワールド

米ロ外相が「建設的な」協議、首脳会談の準備巡り=ロ

ビジネス

メルク、米国内事業に700億ドル超投資 製造・研究

ワールド

コロンビア、駐米大使呼び協議へ トランプ氏の関税引
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 7
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 8
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 9
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 10
    トランプがまた手のひら返し...ゼレンスキーに領土割…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中