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役に立たない?経済学

経済予測が当たらないのには、確かな理由がある

2017年10月24日(火)18時29分
デイヴィッド・オレル(数学者、科学ライター)

経済学に無縁の人には、これは奇妙なことに思えるかもしれない。しかし経済学の歴史を考えると、これは理にかなっている。

経済学の父アダム・スミスは、市場メカニズムという「見えざる手」によって、モノやサービスの価格はその「本質的な価値」を反映するようになると考えたので貨幣はその本質から外れた存在にすぎない。ジョン・スチュワート・ミルは、1848年の著書『経済学原理』で、「経済社会において、貨幣ほど本質的に取るに足らぬものはない」と言い放った。

20世紀の経済学のバイブルだったポール・サミュエルソンの『経済学』も、「交換から貨幣など曖昧な要素を取り除き、本質的な要素までそぎ落とせば、個人や国家間の貿易は基本的には物々交換だ」と述べた。

50年代の経済学者たちは、「見えざる手の定理」と呼ばれるものによって、こうした物々交換経済は、最適な均衡をもたらすことを証明した。ただし、当然ながらそれには多くの条件があった。60年代の市場論者たちは、金融市場は自己修正機能のある均衡システムだと主張した。この理論は、オプション(ある資産を将来特定の価格で売買する権利)の価格決定方法に使われた。そしてそれが金融派生商品(デリバティブ)の爆発的増加につながった。

現在の経済学者は、いわゆるマクロ経済モデルを使って世界経済という天気を予測する。そこでは貨幣や債務、デリバティブは、依然として無視または過小評価されている。

だが、金融工学の専門家ポール・ウィルモットによると、2010年の世界のデリバティブの想定元本は総額1200兆ドルにも上る。これほど巨大な位置を占める要素を無視しているのに、経済全体をきちんとモデル化できていると経済学者たちが考えているなんて、なんだか奇妙に思えるかもしれない。ある理論では、貨幣は重要でないだけでなく、その大部分は存在するべきではないとさえ考えられている。

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