最新記事

国連機関

アメリカの「今さら」ユネスコ脱退で増す中国の影響力

2017年10月20日(金)16時00分
ジョシュア・キーティング

アメリカが抜けたユネスコで幅を利かせるのは習近平の中国か Christian Hartmann-REUTERS

<資金拠出も投票権もなかったアメリカの脱退に衝撃はない。今後はユネスコ組織内で中国の影響力が増すだろう>

アメリカは10月12日、ユネスコ(国連教育科学文化機関)からの脱退を表明した。米国務省によると、「反イスラエルの偏向」と「根本的な改革の必要性」がその理由だ。

フランスのパリに本部を置き、文化財の維持活動や「世界遺産一覧表」で知られるユネスコだが、アメリカとは驚くほど争いを演じてきた過去がある。

1984年、レーガン政権はユネスコの事業がソ連の影響を受けて政治的に左傾化したと見なし、脱退に踏み切った。だが2003年にはブッシュ政権がユネスコへの復帰を決めた。折しもイラク戦争の開戦前で、国際社会の支持を得ようという外交努力の最中だった。

11年にパレスチナのユネスコ加盟が承認されると、オバマ政権はユネスコへの分担金拠出を停止。これは90年代に成立した国内法で、パレスチナの正式加盟を認めた国連機関への資金提供を停止すると定められていたため、やむを得ぬ対応だった

分担金拠出の停止を受けて、ユネスコは規定に基づき13年にはアメリカの投票権を停止した。以降、アメリカは加盟を続行しながら、舞台裏でロビー活動を展開してきた。

今回また摩擦が生じたのは、ユネスコが5月に採択したイスラエルを非難する決議で、イスラエルをエルサレムの「占領者」と呼んだことがきっかけ。ニッキー・ヘイリー米国連大使は指名承認公聴会で、「国連による反イスラエル偏向の長い歴史」と闘うと言明していたから、なるほど脱退にはうなずける。

しかし、既に資金も出さなければ投票もしないアメリカが、ここで脱退しても衝撃はほとんどないだろう。米政府は今後、ユネスコの「常任オブザーバー」の地位を目指すとしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中