最新記事

イラン核合意

対イラン交渉には「なだめ役」も必要だ

2017年10月19日(木)10時40分
アレックス・バタンカ(米中東問題研究所上級研究員)

核合意を破棄したい国はほとんどない(写真はイラン南部ブシェールの核関連施設) Majid Asgariour-Mehr News Agency-REUTERS

<「悪者」トランプがムチを振るうのなら、欧州にアメをやる役を任せるべし>

交渉をまとめるためには、場合によっては「悪者」になることも必要だ――ドナルド・トランプ米大統領は87年の自伝でそう主張した。対イラン政策でも、この本の手法をそのまま踏襲しているのは確実だろう。

トランプは10月13日、15年に結んだ核合意をイランが遵守しているとは認めないと宣言。「さらなる暴力と恐怖、イランの核武装という極めて現実的な脅威」につながる道は歩まないと強調した。

この「脅し」が追加の譲歩を引き出すためのものだとしたら、トランプは間もなく、交渉にはムチを振るう「悪者の警官」とアメをやる「善人の警官」の両方が必要なことを悟るだろう。イランとの交渉で後者の役割を最もうまく務められるのは、ヨーロッパだ。

イランにとってのアキレス腱は今も経済だ。ヨーロッパとの経済関係の強化は、イランの行動を変えさせる強力なてこになる。トランプ政権はヨーロッパを説得して、共同でイランに圧力をかけるべきだ。

イランの核武装阻止を目的とした15年の核合意を破棄したいと考える勢力はほとんどいない。それでも、トランプの対イラン強硬策がヨーロッパで一定の理解を得られる可能性はある。

中東におけるイランの地域戦略に対し、アメリカとヨーロッパは共通の懸念を抱いている。イラクとシリアへの武力介入、イスラエルの国家としての生存権に対する強硬な反対、イラン国内の抑圧的な支配などだ。

ただし、両者が足並みをそろえるためには、必要不可欠な条件が1つある。アメリカが核合意を破棄しないことだ。

性急な核合意破棄はヨーロッパの多くの国々に恐怖をもたらす。アメリカは根気強くヨーロッパとの協調を模索すべきだ。

例えばヨーロッパは、イランのミサイル開発を正当防衛的な軍事戦略の一環と見なす傾向が強い。しかし、この解釈はイラクやシリアなどへのイスラム革命の輸出というイランの長期的な取り組みと矛盾する。

イランがこれらの国々で武装勢力を支援する背景には、中東の政治秩序をひっくり返そうとする狙いがある――この点はヨーロッパも認識している。トランプはヨーロッパとの話し合いでそれを強調すべきだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米4─6月期GDP、3.0%増 前期のマイナス成長

ワールド

イラン核施設への新たな攻撃を懸念=ロシア外務省報道

ワールド

USスチール、米国人取締役3人指名 米軍・防衛企業

ワールド

イスラエル閣僚、「ガザ併合」示唆 ハマスへの圧力強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 4
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 5
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    13歳も72歳も「スマホで人生が終わる」...オンライン…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 9
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中