スーチー崇拝が鈍らせるロヒンギャ難民への対応
スーチーはようやくロヒンギャ問題について国民に向けて演説した(9月19日) Soe Zeya Tun-REUTERS
<ロヒンギャ迫害をフェイクニュースと言い切った、ノーベル平和賞受賞者スーチーの言動から学ぶべき教訓>
ミャンマー(ビルマ)のイスラム系少数民族ロヒンギャをめぐる人道危機が深刻化している。既に40万人以上のロヒンギャが、バングラデシュとの国境を越えたといわれる。
ロヒンギャ難民たちは、ミャンマー軍や地元住民による虐殺や村の焼き打ちから逃げてきたと主張。国連は9月上旬の報告書で、1000人を超えるロヒンギャが殺害された可能性を指摘した。
しかし仏教徒が過半数を占めるミャンマーの政府は、こうした主張を否定。ロヒンギャの過激派による警察署襲撃を受けて、対テロ作戦を実行しているだけだと主張している(ミャンマー当局はロヒンギャを正式な民族・市民と認めていない)。
イスラム諸国からは、非難の声が上がっている。マレーシアとインドネシアは、率先してミャンマーに圧力をかけている。トルコのエルドアン大統領は、ロヒンギャに対する暴力を「集団虐殺」だと非難した。
欧米諸国の反応は鈍い。なかでもアメリカは、「事態を憂慮している」というお決まりの声明を発表した程度だ。その一因は、いまアメリカの注意が北朝鮮の核問題に向いていることにある。また、既にシリア難民への対応に苦慮している欧米諸国に、別のイスラム難民を支える意欲がうせていることも確かだ。
しかし各国の間には、ミャンマー、特に指導者であるアウンサンスーチーを批判したくないという思いもあるようだ。
スーチーは90年の選挙で軍事政権に勝利を否定されて以降、20年間を自宅軟禁下で過ごすうちに国際的な著名人となった。91年にはノーベル平和賞を受賞。彼女が10年に自宅軟禁を解かれて再び選挙への出馬を許されると、外交と制裁政策の勝利、そして人権問題における米オバマ政権にとっての勝利とされた。
英雄でも悪人でもなく
憲法の規定によって大統領の座に就くことはできないが、15年の選挙でスーチー率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝すると、彼女を事実上の指導者に据えるために「国家顧問」ポストが新設された。スーチーがネルソン・マンデラのような「国際的な偉人」の仲間入りをするのは、確実と思われた。