最新記事

ダンスで衰え知らずの脳に 運動で海馬が増大──ドイツの研究結果

2017年9月14日(木)18時10分
松丸さとみ

Wavebreakmedia-iStock

ダンスVS持久力運動、より効果的なのはどっち?

脳を衰えさせない活動、というと、計算やクイズなどを想像するが、脳の若さを保つのにダンスが非常に効果的ということが、学術専門誌『フロンディアーズ・イン・ヒューマン・ニューロサイエンス』にこのほど発表された研究で明らかになった。

研究を行ったのは、ドイツ神経変性疾患センターのカトリン・レーフェルト博士率いるチーム。「老化に伴う記憶や身体能力の低下を緩めたり、逆に改善したりするのに身体的なエクササイズが有効」とするレーフェルト博士は、エクササイズの種類や内容によって効果に違いがあるのか、に注目した。

そこで、2種類のエクササイズで実験を行うことにした。1つはダンス。そしてもう1つは、サイクリングやウォーキングなど持久力を必要とする運動だ。平均年齢68歳のボランティアをダンスのグループ(14人)と持久力の運動のグループ(12人)という2つに分け、それぞれクラスを1年半にわたって毎週受けてもらった。

運動で海馬が増大、ダンスは平衡能力も改善

2つのグループで違いを明確にするために、ダンスのグループは参加者にとって常に「チャレンジ」となるようにした。ダンスの種類は、ジャズダンス、スクエアダンス、ラテンダンス、ラインダンスと豊富にし、ステップやフォーメーション、スピードやリズムは2週間に1度、新しいものにした。振り付けをタイミングよく思い出さなければならない、というプレッシャーの中、インストラクターからヒントをもらわずに踊る、という点がダンス・グループにとって最も難しい点となったようだ。

1年半のレッスンの後、参加者の海馬について調べた。海馬は、記憶や学習を司る脳の部分で、年齢とともに萎縮し、アルツハイマー病からの影響を受ける部分でもある。また実験では、怪我の防止につながる平衡感覚についても検証した。

1年半のエクササイズを通じて、どちらのグループも海馬が増大した。ただし、平衡感覚の能力については、ダンスのグループのみで改善が見られたという。レーフェルト博士は、ダンスのグループが経験した、限られた時間内に振り付けを思い出さなければいけないという状況が、平衡感覚の能力向上に寄与したのではないか、と話している。

アンチエイジ・プログラムに活用

科学系の米ニュースサイト「サイエンス・デイリー」によると、レーフェルト博士は今回の実験から得たデータを参考に、脳の老化と戦う新たなフィットネス・プログラムを開発する意向だ。「Jamming(ジャミン、音楽の即興演奏)」と「gymnastic(ジムナスティック、体操)」を組み合わせた造語「Jymmin(ジミン)」という名の、体の動きから音(メロディやリズム)を奏でるシステムを評価しているところだという。

レーフェルト博士は「自立して健康的な生活をできるだけ長く送りたいと誰もが思うもの。運動は、リスク要素に対抗したり老化による衰えを遅めたりして、こうした自立した健康的な生き方に寄与するライフスタイル要素の1つ。ダンスは特に高齢者にとって、心と体に新たな課題を設けるのに強力なツールだと思う」と述べている。

自分の好きな音楽に合わせて踊るなら、気持ちまでハッピーになれそうだ。週1度で効果が出るようなので、スポーツジムのプログラムや習い事、サークルなど、無理せずに続けられる。さあ、踊りに行こう!

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

金現物、4500ドル初めて突破 銀・プラチナも最高

ワールド

イスラエル、軍ラジオを来年閉鎖 言論の自由脅かすと

ワールド

再送-ベネズエラが原油を洋上保管、米圧力で輸出支障

ワールド

豪NSW州で銃規制・ 反テロ法強化、乱射事件受け
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中