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ハリケーン

教訓は生かされたか? カトリーナ取材記者が見たハービー被災地

2017年9月1日(金)16時58分

こうした被災者への手厚い支援は、危機管理当局がカトリーナの失敗をよく研究したおかげでもあると、官民の連携に詳しい赤十字のボランティア、デービッド・シェーニックさんは指摘する。

カトリーナ後、赤十字は根本的な3つの変更を行った。1つは、被災者がペットを連れて避難するのを許可すること。カトリーナでは、ペットを置いて救助されることを多くの住民が拒否したからだ。2つ目は、カトリーナで主な失敗の1つだった、政府との連携を強化すること。そして3つ目は、被災地に近いボランティアを効果的に割り出して配置するデータベースを構築することだ。

12年前、ニューオーリンズのコンベンションセンターに設けられた「避難所」は、全く計画されたものではなかった。バーバーさんが収容されたスーパードームに被災者を収容しきれなくなってから、自然と避難所と化していった。

センターには電気も水道もなく、トイレは最悪だった。多くの人は食料も水もほとんどなく、希望も見いだせないまま、州兵やヒューストン行きのバスが到着するまで何日も過ごした。

携帯電話は使えず、スマートフォンはまだこの世になかった。誰もテレビを見ていなかったし、フェイスブックはまだ大学のネットワークにすぎず、ツイッターも存在しなかった。それ故、私たちの取材班がコンベンションセンターに新聞を数部持って行ったとき、食べ物と同じくらい重宝がられた。

私は後方の倉庫で4人の遺体を目撃した。1人は車椅子に座ったまま、毛布がかけられていた。もう1人は床に横たわり、毛布に覆われていた。遺体から血が流れている跡が見えた。第9地区へ行ったときには、膨張した複数の遺体も目にした。

だが、私が取材したハリケーンはどれも、死と壊滅的状況のなかにおいて、この上ない美しさも見せてくれた。それは自然の力と、それにあらがおうとする人間の意志とがぶつかる巨大な衝突から生じるものだ。

カトリーナでは、忘れることのできない思い出が1つある。コンベンションセンターに避難していたアニタ・ローチさんである。彼女は、バプティスト教会の賛美歌隊長だった。

周囲が打ちひしがれるなか、彼女は両手を上げると、大声で歌い始めた。かつて息子や自宅を失った時に、また洪水で危うく自分と夫が命を奪われかけた時に苦しみを癒やしてくれたゴスペルのスタンダード曲「スタンド・バイ・ミー」だった。

コーラスが沸き起こり、彼女に加わった。

(翻訳:伊藤典子 編集:山口香子)

Brian Thevenot

[ヒューストン 30日 ロイター]


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