最新記事

北朝鮮ミサイル発射

北朝鮮を止めるには、制裁以外の新たなアプローチが必要だ

2017年8月29日(火)09時00分
三浦瑠麗(国際政治学者)

イラン、イラクと大違い

北朝鮮を制する試みがことごとく失敗したのは、アメリカと中国が何もせずに妥協を重ねてきたからだ。2002年にジョージ・W・ブッシュ元米大統領が演説でイラクとイランと北朝鮮を「悪の枢軸」と呼んだ時、アメリカとその同盟国に対する核の脅威という意味で、3カ国はほぼ同レベルにいるように見えた。

アメリカはイラクに侵攻し、イランとは外交的解決により画期的な核合意を結んだ。北朝鮮に対する関心や問題解決に向けた決意のなさと比べれば、まるで対照的だ。

中国にとって、北朝鮮は厄介な隣国だ。中国経済の規模が拡大し発展するなか、中国が北朝鮮との関係から得られるものはほとんどない。だが「北朝鮮カード」は、中国にとって戦略的な価値がある。

北朝鮮を抑制できるのは中国のみ、という発想は多分事実だが、それは中国にとって非常に好都合でもある。中国は、アメリカと国際社会全体が北朝鮮に対して抱く懸念の一部を共有してはいるものの、無理をしてまで北朝鮮の振る舞いを正そうとはしない。

中国は明らかに、北朝鮮問題で現状を維持する方が有利だと見ている。北朝鮮の核の脅威がある限り、韓国は北朝鮮の抑止を中国に頼らなければならない。中国は北朝鮮の封じ込めに本腰は入れないが、米軍による最新鋭迎撃ミサイル「THAAD(終末高高度防衛ミサイル)」の韓国配備には絶対に反対だ。

中国が北朝鮮の突然の崩壊を心配するのも当然だ。そうなれば、数百万人の難民が中朝国境に押し寄せることになる。朝鮮半島にアメリカと軍事的に結びついた統一国家が誕生する事態も、中国としては何としても回避したい。

大き過ぎる安全保障上のリスク

最近の北朝鮮のミサイル発射実験に対し、国際社会がこれまで以上に強い対抗措置に出るかどうかはまだ分からない。だが北朝鮮問題に関する行動や決断をこれ以上怠れば、深刻な結果をもたらす恐れがある。

端的に言って、朝鮮半島周辺諸国が直面する安全保障上のリスクはすでに正当化し難いレベルに達している。核武装した北朝鮮は、外交による話し合いが閉ざされたままコーナーに追い込まれている。だが、この問題で最も影響力の大きなプレイヤーであるアメリカと中国は、そのリスクを感じていない。両国こそが、問題の元凶だからだ。代わりにリスクを実感しているのは、中堅プレイヤーの日本と韓国だ。

日本や韓国には責任がないと言いたいのではない。韓国は1990年代半ば、行動しないことによって生じる危険を過小評価し、ピンポイント爆撃にも反対した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがウクライナを大規模攻撃、3人死亡 各地で停

ワールド

中国、米国に核軍縮の責任果たすよう要求 米国防総省

ビジネス

三井住友トラスト、次期社長に大山氏 海外での資産運

ビジネス

台湾の11月輸出受注、39.5%増 21年4月以来
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中