最新記事

米ロ関係

トランプの力を過信して米議会に負けたプーチン、次の一手

2017年8月8日(火)14時00分
マクシム・トルボビューボフ(米ケナン研究所上級研究員)

今年7月、ドイツのハンブルクで初の首脳会談を行ったプーチンとトランプ Carlos Barria-REUTERS

<プーチンは、トランプの「強権」で対ロ制裁を解除させようとして米議会の制裁強化を食らってしまった。このまま引き下がるわけがない>

先週、ロシアに対する制裁強化法案にいやいや署名させられたドナルド・トランプ米大統領が、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を羨ましがっていたとしても不思議ではない。

ロシアでは、議会が大統領の政策をつぶそうとしたり、メディアが大統領の失敗をいちいちあげつらったりしないし、大統領の防壁である情報機関が大統領のあら探しをすることなどあり得ない。

【参考記事】トランプのロシア疑惑隠し?FBI長官の解任で揺らぐ捜査の独立

トランプが、世論に押されて対ロ制裁強化法案に署名し、対ロ外交の自由を失ったのに対し、プーチンは好きなように対米外交を行える。

それほどに、両国の政治風土はまったく違う。それが今、相互に影響を及ぼそうとしている。

【参考記事】トランプとの会談前、ロシアはジョージア領土を奪っていた

米紙ワシントン・ポストによれば、トランプと同じ共和党のある上院議員は最近、こう明言した。「我々はアメリカ国民に奉仕する。大統領に仕えるのではない。政権が望むことを議会が従うのは、それが決して国民を苦しめない場合に限る」(サウスカロライナ州選出、ティム・スコット上院議員)

あり得ない大統領批判

ロシアでは、議員が大統領にこんな物言いをするなど、野党議員でもあり得ない。

ロシアはアメリカと違う。ロシアのビャチェスラフ・ボロディン下院議長は、大統領と国家を同等とみなす発言をしたことがある。「プーチンがいるから、ロシアはある。もしプーチンがいなければ、今のロシアはないだろう」。ロシアが主催する国際科学会議「バルダイ会議」に大統領府の副長官として出席した2014年、ボロディンはこう演説した。

今年初めの学生らとの会合で、大統領の名誉と威厳を保護する法律を新たに制定するよう主張した1人の学生の提案を、ボロディンは熱烈に支持した。「君の言う通りだ。世界史を振り返れば、君が言ったような法律が切望されているのが分かる。どこにでもある法律だ」

行政府を保護する様々な法律は、世界中に存在する。だがロシアの大統領は、さらなる保護を必要としない。既存の法律で十分だ。

【参考記事】激変する天然ガス地政学----アメリカが崩すロシア支配

メディアに関して言えば、ロシアメディアが自国の大統領を攻撃することは極めて稀なため、ロシア政府はメディア規制の必要性を説くために、わざわざアメリカメディアの例を持ち出さなくてはならないほどだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU首脳会議、ロシア凍結資産の活用協議 ベルギーな

ワールド

TikTok米事業、米投資家主導の企業連合に売却へ

ワールド

マクロスコープ:高市首相が気を揉む為替動向、政府内

ビジネス

フェデックス9─11月業績は予想上回る、通期利益見
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中