最新記事

中台関係

台湾からパナマをかすめ取った中国、寝返ったパナマ

2017年6月14日(水)19時30分
ベタニー・アレン・イブラヒミアン

中国にとって、貿易取引を餌に、台湾の友好国を味方に誘い込むことは簡単だろう。とはいえ、いくつかの国が台湾との関係を維持するのを黙認するのも、中国の目的に適っている。台湾が一線を越えたときに、政治的な交渉の切り札として使えるからだ。

中国は、国際舞台における台湾の存在感を着実に切り崩し、国際機関や委員会への台湾の参加を妨げている。最近では、中国の圧力を受け、世界保健機関(WHO)が総会から台湾を締め出した。つまり、2009年から続いていた台湾のオブザーバー参加が認められなかったのだ。

パナマが台湾と縁を切り、中国と国交を結んだことは、台湾にとってはさらなる衝撃だ。パナマも含め、台湾と外交関係を結んできた国は、台湾の開発援助の受益国。開発援助を通じて、台湾は発展途上国の忠誠を中国と奪い合ってきた。だが、次第に中国に押されつつあり、国交のある国は1990年代の約30カ国から数を大幅に減ってしまった。

【参考記事】台湾ではもう「反中か親中か」は意味がない

中国はパナマ以前にも、西アフリカの小さな島国であるサントメ・プリンシペを自陣に引き入れている。このときは、蔡と大統領就任前のドナルド・トランプが電話会談したことに対する報復だった。

「外交の買収戦には参加しない」

アメリカ大統領または次期大統領が台湾のトップと公式に電話会談をしたのは、1979年以来初めてのことだった。アメリカは台湾と正式な国交を結んでいない。中国にすれば、この電話会談は米台の接近し過ぎと映った。

そして今、パナマが台湾を見捨てて出て行った。蔡は6月13日、パナマとの断交を発表する会見で、「我が国の国家安全保障チームは、この状況を前もって察知し、できる限りの努力をしてきた。この結果はきわめ遺憾だ」と述べた。

「我が国は外交上、味方となる国を失ったが、外交上の買収合戦には参加しないという我々の方針に変わりはない」

パナマの心変わりは、中米における台湾の他の友好国も中国にシフトしかねない危うい状況を示唆している。例えばニカラグアは今のところ台湾との外交関係を維持しているが、中国から多額の投資も受けている。

2013年には、中国の億万長者、王靖が、ニカラグアを貫く運河の建設に関して、400億ドル規模の契約を結んだ。全長270キロに及ぶこの運河は、深さも広さもパナマ運河を凌ぐ。ニカラグア国内の反対と官僚主義のおかげで進展はしていないが、それも時間の問題かもしれない。

(翻訳:ガリレオ)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

冷戦時代の余剰プルトニウムを原発燃料に、トランプ米

ワールド

再送-北朝鮮、韓国が軍事境界線付近で警告射撃を行っ

ビジネス

ヤゲオ、芝浦電子へのTOB価格を7130円に再引き

ワールド

インテル、米政府による10%株式取得に合意=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で見つかった...あるイギリス人がたどった「数奇な運命」
  • 4
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 5
    『ジョン・ウィック』はただのアクション映画ではな…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 7
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 8
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 9
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 10
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中