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エイリアンとの対話を描く『メッセージ』は、美しく複雑な傑作

2017年5月26日(金)10時00分
トム・ショーン

ルイーズは、エイリアンに対する軍の姿勢の根底に「敵か味方か」という二項対立の思考があることを指摘する。そして、「人の世界認識は、使用している言語によって決まる」という学説を基に、エイリアンたちがそうした対立の発想を持っていないらしいと気付き始める。

原作であるテッド・チャンの短編SF「あなたの人生の物語」のメッセージもここにある。異なる銀河間の友情を妨げる最大の障害は、言葉の違いなのかもしれない。

もっとも、敵か味方かという二項対立の考え方を否定的に描くのは、少なくとも51年の『地球の静止する日』以降のエイリアン襲来映画では定番になっているようだ。

『メッセージ』でも、中国が神経をとがらせ、米軍が軍事攻撃に前のめりになるなか、ルイーズはエイリアンたちが平和的な目的でやって来たことを証明するのでもう少し待ってくれと懇願する。型にはまった対立の思考を批判するにしては、いささか型にはまり過ぎのストーリーと言えるかもしれない。

【参考記事】「これでトランプを終わらせる」マイケル・ムーアが新作を製作中

『メッセージ』は、制作陣が思っているほど哲学的な映画とは言えない。しかし、映画館に足を運ぶ価値は十分にある。音と映像の「彫刻家」として、ビルヌーブの手腕は卓越している。観客は音と映像の世界にのみ込まれ、その余韻は映画を見終わった後も長く残る。

この映画は雄大で、荘厳で、不気味で、ある意味で信じ難く、時には理解し難い。もし本当にエイリアンがやって来れば、私たちはまさにそのような感覚を味わうのだろう。

[2017年5月30日号掲載]

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