最新記事

アメリカ政治

ニクソンより深刻な罪を犯したトランプは辞任する

2017年5月15日(月)19時00分
ジェイソン・ルミエール

ビジネスマンとしてのトランプは説明責任を逃れる達人だった Yuri Gripas-REUTERS

<FBI長官コミーを解任したトランプは、遂に一線を越えてしまったようだ。議会が弾劾手続きに入るのはもはや不可避とみられ、そうなればトランプは辞任して、富豪ビジネスマンに戻るだろう>

昨年の米大統領選でドナルド・トランプが勝利するという予想を的中させた歴史家が、米連邦捜査局(FBI)のジェームズ・コミー前長官の解任劇はウォーターゲート事件と比べても「はるかに深刻」で、トランプは今すぐ弾劾されてもおかしくないと語った。

米アメリカン大学のアラン・リクトマン教授(政治史学)は昨年11月、1984年以降の米大統領選の結果をすべて言い当ててきたことで一躍脚光を浴びた。今年4月にトランプの弾劾を予測する著書『The Case for Impeachment(弾劾の論拠)』を出版したばかりだ。リクトマンは、先週のコミー解任で今後ますます大統領に火の粉が降りかかることになるという。

【参考記事】トランプ勝利を予測した教授が説く「大統領弾劾」シナリオ

「今でもトランプを弾劾できることはほぼ間違いない」と、彼は先週末に本誌に語った。「議論の余地はあるが、トランプはすでに司法を妨害し、合衆国憲法で定められた報酬条項(外国政府から金銭を受け取ることを禁止)にも違反した。今すぐトランプを弾劾すべきだというわけではないが、弾劾(可能性)の調査は行うべきだ」

トランプがコミーを突然解任したのは、コミーがFBIのトップとして、ロシアによる大統領選介入問題とトランプ陣営の連携の可能性を巡り捜査を指揮している最中のことだった。ホワイトハウスは当初、解任の理由は、昨年の大統領選の民主党候補ヒラリー・クリントン元国務長官が公務で私用メールサーバーを使用した問題で、コミーの対応を問題視したロッド・ローゼンスタイン司法副長官の勧告を受け入れたためと主張していた。だがその後、トランプは説明を一転させた。

【参考記事】 >トランプのロシア疑惑隠し?FBI長官の解任で揺らぐ捜査の独立

「解任を決断したとき、自分自身に言った」と、トランプは木曜に米NBCのインタビューで述べた。「『私とロシアが連携しているなんて話はでっち上げだ。選挙に勝てない民主党の言い訳だ』」

コミーがロシアとトランプ陣営との関係を捜査していたのが気に入らなかった。だから解任した、と言わんばかりだ。

【参考記事】FBIコミー長官解任劇の奇々怪々

明らかな司法妨害

さらにトランプは、夕食の席と2回の電話の計3回にわたり、自分が捜査対象になっていないかどうかをコミーに確認し、捜査対象ではないと言わせたことを明らかにした。捜査の独立性を尊重するはずの大統領が、コミーに個人的な忠誠を求めたのだ。

米議会上院の民主党ナンバー2のリチャード・ダービン上院議員を筆頭に、トランプに批判的な論客は、コミーを解任したトランプの行為が捜査に関する司法妨害に当たると非難している。もしそうなら、弾劾に相当する罪だ。

「トランプ大統領は危険だ。民主主義の根幹に関わる捜査について、司法妨害した可能性がある。大統領の信頼が失墜した」とダービンは12日、米MSNBCのインタビューで述べた。

【参考記事】トランプを追い出す4つの選択肢──弾劾や軍事クーデターもあり

リクトマンも同じ意見だ。

「トランプは司法妨害の罪に問われてもおかしくない。まず問題なのは、トランプが自分のことを捜査していた捜査機関のトップに自分への忠誠を強要した点だ」とリクトマンは指摘した。「それはかなり露骨な司法妨害だ。しかもコミーをクビにした上、解任の理由について当初は嘘をついた、あるいは自らの指示で政権関係者に嘘をつかせた疑いがある」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECBが金利据え置き、4会合連続 インフレ見通し一

ワールド

ロシア中銀、欧州の銀行も提訴の構え 凍結資産利用を

ビジネス

英中銀、5対4の僅差で0.25%利下げ決定 今後の

ワールド

IS、豪銃乱射事件「誇りの源」と投稿 犯行声明は出
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 8
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 9
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 10
    欧米諸国とは全く様相が異なる、日本・韓国の男女別…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中