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アマゾンIDで他サイトでも買い物できるようにする思惑

2017年5月23日(火)11時31分
倉沢美左(東洋経済オンライン編集部記者)※東洋経済オンラインより転載

言わずもがなだが、ネットの世界では「デファクト・スタンダード」になることほど強いことはない。名だたるハイテク大手が決済事業でしのぎを削るのは、先進国でだけでなく、新興国でも今後、ネットショッピング利用が大きく伸びることが見込まれるから。その中で、地道に事業者や利用者を増やし、経済圏を広げていくことで、「誰もが使う決済のスタンダード」となるメリットは計り知れない。

もっとも、アマゾンが見据えるのはネットの世界ではない。小売業界では、ネットとリアル店舗をつなげる取り組みが盛んに行われているが、アマゾンでも顧客がリアル店舗での買い物でモバイルを通じてオーダーをしたり、支払いをしたりできるサービスを提供し始めている。

「たとえば、米国のあるシャツ専門店では、顧客が店で採寸し、生地を選ぶと、後日、自宅にオーダーシャツが届く取り組みをやっている。店側は店舗に在庫を抱える必要はないし、客は一度採寸すればいつでもそれを基にシャツを作れる。この店のリピート注文率は92%にも上る」(ゴティエ副社長)

中小小売りではリアル店舗のみで展開しているところも少なくないが、今後こうした店舗をネットに導くことによって、アマゾン経済圏へ取り込むといったやり方も考えられるだろう。

リアル書店オープンの意図は?

アマゾンはさらに、おひざ元のシアトルに「アマゾンブックス」と呼ぶ書店もオープン。アマゾンでの売れ筋や評価が高い書籍が並ぶ店内では、顧客が本にスマホをかざすと、本の内容やレビュー、そのほかのオススメやこの本に興味を持った人がほかに何を買っているかなどが表示される。「が、単にネットで買うのと違って、リアルの店舗では、本の中身をのぞいたり、触ったりできる利点がある」(ゴティエ副社長)。

購入する場合は、本のバーコードをスマホでスキャン。決済はもちろん、ネット上で完了する。オープンから9カ月。「われわれの調査では、顧客の利用率はスターバックスがアプリを使って何年もかかったレベルにまで達している」(ゴティエ副社長)という。

決済事業には、それぞれの分野でトップの企業がひしめき合っているだけに、アマゾンが独走できるとは限らない。とりわけ、新興市場はまだクレジットカードの浸透率が低いだけに、市場に入り込むには従来と違うやり方が必要になる。

ネットとリアルの「融合」はまだ始まったばかりで、実際どの程度そうした需要があるかは未知数だ。巨人たちがぶつかり合う決済市場が白熱するのはこれからだろう。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
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