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アマゾンIDで他サイトでも買い物できるようにする思惑

2017年5月23日(火)11時31分
倉沢美左(東洋経済オンライン編集部記者)※東洋経済オンラインより転載

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パトリック・ゴティエ/米アマゾン副社長。2015年、米ペイパルからアマゾンに移り、ID決済事業を統括する(撮影:大澤 誠)

顧客が気にするのは価格ではない

「新たに登録するという面倒さだけでなく、決済にアマゾンを利用できるという点でセキュリティ上の安心感もある。こういう点で、20年間ビジネスをやってきた信頼感が生きる」とゴティエ副社長は話す。

「米国で調査して、利用者が特定のサイトで買い物をする理由は、価格でも商品のセレクションでもないことがわかった。最も大事なのは、過去の経験から(そのサイトが)信頼できるかどうか、ということだった。人は機能だけでなく、感情的に"使いやすい"というものに引かれる」

これに伴って、コンバージョン率(購入完了)の上昇も見込める。業種にもよるが、アマゾンペイ導入によってコンバージョン率は「30~70%アップする」という。

「質の高い顧客データを手に入れられるメリットもある」とゴティエ副社長は話す。確かに事業者側は、顧客の同意を得てアクティブなネット利用者の名前や住所、メールアドレスなどを入手することが可能。ただし、アマゾンでは性別や年齢などまで取得していないので、こうした情報は手に入らない。この点、事業者は気にしないのだろうか。

これについて、ゴティエ副社長は「ネット利用者の多くは、事業者間で細かい顧客データがやり取りされることを好まない。アマゾンの役割はあくまでチェックイン、チェックアウトを容易にすることであって、事業者と顧客の『仲介』ではない」とキッパリ。「細かいデータが欲しい場合は、事業者側と顧客間で関係性が構築されてから、事業者側が質問項目を設けたらいいのではないか」。

もう1つの利点は、セキュリティ面。アマゾンでは独自の不正検出ツールなどを導入しており、たとえば中小のショッピングサイトなどでも、「アマゾンレベル」のリスク管理をすることができる。不正手法が高度化する中、中小企業が自前でセキュリティを強化するには限度があるだけに、コスト面でのメリットは小さくないだろう。

「アマゾン経済圏」を着実に広げる

では、アマゾンにとって、自社サイト外でアマゾンペイを使って買い物できるようにする利点は何だろうか。1つは単純に決済手数料収入が入ること。アマゾンでは現在、物理的なグッズやサービスについては一律4%、デジタルグッズについては同4.5%を徴収している。

アマゾンでは販売を行っていないブランドなどを、決済を通じて取り込むことで、アマゾン経済圏を拡大する狙いもある。ゴティエ副社長によると、アマゾンペイ導入当初は中小企業が利用するケースが多かったが、最近では大手や高級ブランドが取り入れることも増えている。ゾゾタウン、アディダスというのがいい例だろう。

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