最新記事

北朝鮮

「最大で178万円」高騰する北朝鮮からの脱出費用

2017年5月22日(月)12時19分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

中国との国境を流れる鴨緑江で、北朝鮮側の岸に見える北朝鮮兵士たちの姿(2017年4月) Aly Song-REUTERS

<北朝鮮当局の取り締まり強化により、脱北費用が驚くほど高騰している>

北朝鮮で、脱北費用の高騰が続いている。当局の取り締まり強化で、ワイロを受け取り脱北に協力する国境警備隊員が減少していることが主な原因だという。

北朝鮮を陸路で脱出して中国に向かうには、国境を流れる鴨緑江、豆満江のいずれかを渡らなければならない。安全に渡るには国境警備隊員に渡江費、つまりワイロを渡す必要がある。

「関われば殺される」

この渡江費だが、2006年には1人あたり500人民元(当時のレートで7000~7500円)ほどだった。脱北の日時や費用は、従来は脱出する人と国境警備隊員が個人的に掛け合って決めていたが、ブローカーが介在するようになったことで高騰し、2010年には1万元(当時のレートで約13万3000円)に達した。

金正恩政権に移行して国境警備がさらに強化されたのを受け、2015年には1万ドル(当時のレートで約123万円)に達していた。

それが今では、1万3300ドル(約147万6000円)から1万6000ドル(約177万6000円)になっているという。

脱北にはただでさえ、生命に危険が及ぶほどのリスクが伴うのに、これではたとえ覚悟があっても、行動に踏み切るのは難しいだろう。

(参考記事:中国で「アダルトビデオチャット」を強いられる脱北女性たち

NKウォッチの安明哲(アン・ミョンチョル)代表は、脱北費用高騰の理由として、脱北を幇助する人が減ったことを挙げた。当局は、脱北幇助に対する処罰を徐々に強化しており、北朝鮮国内では「脱北に関わると殺される」という認識が拡散しつつあるという。

実際、2015年8月には両江道(リャンガンド)の国境警備隊25旅団2大隊と5大隊で軍官(将校)、下士官など40人が逮捕され、うち3人が銃殺された。また、同年9月にも民間人5人が銃殺刑に処せられている。

韓国の人権団体である「北朝鮮の政治犯収容所の犠牲者家族の会(No Chain)」のチョン・グァンイル代表によると、以前なら国境警備隊員にワイロを渡せば問題なかったが、今では幹部にワイロを渡しても脱北は困難となっており、保衛員(秘密警察)との連携をうまくとってようやく脱北できるほどになっているという。

韓国統一省の統計によると、韓国に入国した年間の脱北者の数は、2009年に2914人に達したが、それ以降は減少傾向にあり、2015年には1275人となった。2016年からは再び増加に転じて1418人となった。2017年は3月末の時点で278人に達している。

増加に転じた理由としては、海外在住の北朝鮮の人が自国の未来に絶望して未来のために脱北する「移民型脱北」が増加していることが指摘されている。

(参考記事:亡命した北朝鮮外交官、「ドラゴンボール」ファンの次男を待っていた「地獄」

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英地方選、右派「リフォームUK」が躍進 補選も制す

ビジネス

日経平均は7日続伸、一時500円超高 米株高や円安

ワールド

米CIA、中国高官に機密情報の提供呼びかける動画公

ビジネス

米バークシャーによる株買い増し、「戦略に信任得てい
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中