最新記事

<ワールド・ニュース・アトラス/山田敏弘>

オバマ政権は北朝鮮ミサイル実験をサイバー攻撃で妨害していた

2017年4月17日(月)16時15分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

16日の北朝鮮のミサイル実験について、直後に爆発して失敗したと報じる韓国のテレビニュース Kim Hong-Ji-REUTERS

<北朝鮮の核開発を阻止できなかったと認識したオバマ政権は、2014年初めに北朝鮮のミサイル実験を妨害するサイバー攻撃を強化するよう指示した>

核兵器開発の推進を公言する北朝鮮に対して、アメリカは新たな挑発を阻止しようと軍事力を朝鮮半島周辺に展開し、にわかに緊張が高まっている。世界各国が暗躍するサイバー戦争に肉薄した新刊『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)の著者・山田敏弘に、朝鮮半島をめぐるトランプ政権のサイバー戦略について話を聞いた。

◇ ◇ ◇


――いま朝鮮半島はこれまでにないレベルの緊張状態にある。アメリカが過去に北朝鮮をサイバー攻撃していたという話もあるようだが?

アメリカは、北朝鮮のミサイル発射実験をサイバー攻撃で妨害してきたと見られている。ミサイルの制御システムを不正操作したり、発射装置を無効化したり、ミサイルが離昇する際に爆破させるなどの工作が行われていたようだ。発射直後にミサイルが軌道を大きく外れたり、空中分解したりするケースもあった。これは「Left-of-launch(発射寸前)」作戦と呼ばれているもので、アメリカのサイバー攻撃だ。

――米政府はいつから北朝鮮をサイバー攻撃しているのか?

オバマ政権は2010年頃から、北朝鮮の核開発施設に対してサイバー攻撃を仕掛けようとして失敗したと言われている。それからしばらく後、アメリカは北朝鮮の核開発を阻止できなかったことを認識し、大陸間弾道ミサイルなどの開発を阻止する方針へと転換した。その手段の一つとして、オバマ政権が2014年初めに北朝鮮のミサイル実験を妨害するサイバー攻撃を強化するよう指示を出したと言われている。

――現在のトランプ政権も、北朝鮮にサイバー攻撃をしているのか?

100%の断定はできないが、そう見ている専門家もいるし、それを示唆する政府関係者もいる。ここ最近の北朝鮮のミサイル発射実験、例えば4月5日の弾道ミサイル発射実験はサイバー攻撃によって失敗したとも言われている。

ちなみに最近まで、米ニューヨーク・タイムズ紙はこのサイバー攻撃について記事にしないよう、米政府から要請されていた。とにかくサイバー攻撃の情報はトップシークレットで、それを漏らして最近犯罪に問われた元米軍幹部のケースもあるため、なかなか詳細な情報が出にくい環境にあることは確かだ。

【参考記事】北朝鮮に対する軍事攻撃ははじまるのか

――メディアなどでは、先日のシリアに対するミサイル攻撃を受けて、「トランプ・ドクトリン」という言葉も出てきた。トランプ大統領のサイバー政策とはどのようなものなのか?

詳細はまだ明らかになっていない。トランプ大統領は就任直後から物議を醸す大統領令をいくつも出し、1月31日にはサイバー政策についての大統領令に署名する予定だったが、突然、中止した。それ以降、ドラフトがリークされたりはしているが、現在まで発表も署名もない。

ただこんな話がある。2009年にイランの核燃料施設を破壊したマルウェア(不正なプログラム)の「スタックスネット」は、NSA(米国家安全保障局)の「TAO(テイラード・アクセス・オペレーションズ)」と呼ばれるサイバー集団がイスラエル軍の「8200部隊」と共に作り上げたものだが、このサイバー攻撃作戦は、ジョージ・W・ブッシュ大統領の下で立案され、オバマ大統領に引き継がれて作戦が決行されている。

今、オバマからトランプ政権には、北朝鮮のミサイル開発を阻止するためのサイバー攻撃が引き継がれたのではないか、という話も漏れ伝わっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マスク氏、FRBへDOGEチーム派遣を検討=報道

ワールド

英住宅ローン融資、3月は4年ぶり大幅増 優遇税制の

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ビジネス

アルコア、第2四半期の受注は好調 関税の影響まだ見
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中