最新記事

中国

中国河北省の新特区は何をもたらすか(特大級のプチバブル以外に...)

2017年4月14日(金)13時12分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

ジョージ・W・ブッシュ米政権で財務長官を務めたヘンリー・ポールソン氏は2011年に米国と中国の経済、環境問題を解決するためのシンクタンク、ポールソン研究所(The Paulson Institute)を立ち上げたが、その活動の一貫として中国の副都心計画について習近平総書記と2014年7月に会談した。

詳細は同氏の著書『Dealing with China』(Headline Book Publishing、2015年)に記されているが、白洋淀や河北省保定市という地名が言及されている。また習近平総書記は首都の混雑を解消し周辺地区を発展させるためのプランとして、複数の都市を一体化させる"地域化"こそ、将来の成長を促進する鍵になるとの構想を明かしたという。

雄安新区は高速鉄道によって北京市、天津市まで1時間で移動可能だ。密接な交通網により巨大都市圏を作り上げる、日本の首都圏のような姿を構想しているということなのだろう。

「世界の工場」の礎となった深圳。中国の台頭を加速させ、「世界の市場」への転換を後押しした浦東新区。この2つと比べると、「大都市の混雑を緩和、郊外の都市化を推進」という目的はややインパクトに欠けるように思われる。

また、エドワード・グレイザーの『都市は人類最高の発明である』(NTT出版、2012年)が対面コミュニケーションこそがイノベーションの源泉だと指摘するように、巨大都市圏作りよりも、過密さを維持しつつも技術によって都市病を克服することこそが近年のトレンドではないだろうか。

その意味でも雄安新区の有用性には疑問符が着く。中国政府に懐疑的な人々からは鄧小平、江沢民と並ぶ政治的遺産を手に入れるための業績作りと揶揄されるゆえんだ。果たして巨費を投じて推進される「千年の大計」は何を生み出すのだろうか。

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。4月下旬に『現代中国経営者列伝 』(星海社新書)を刊行。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン攻撃と関係筋、イスファハン上空に

ワールド

ガザで子どもの遺体抱く女性、世界報道写真大賞 ロイ

ワールド

北朝鮮パネルの代替措置、来月までに開始したい=米国

ビジネス

個人株主満足度、自動車はトヨタ 銀行は三井住友が首
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中