最新記事

中国

中国河北省の新特区は何をもたらすか(特大級のプチバブル以外に...)

2017年4月14日(金)13時12分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

ネットを飛び交っていたのは怪情報だけではない。狂騒曲に参加する金もコネもない一般人たちの風刺も含まれていた。私が爆笑したのはSNSで共有されたジョークだった。

takaguchi170414-sub.jpg

捜狐網に掲載されたコラム「我奋斗18年考上你看不起的大学,人生依旧一败涂地」(18年間の必死の努力の末、イマイチの大学に入学した、今なお負け犬人生だ)より。雄安新区候補地の出身者が必死の受験勉強の末、北京市の二流大学に合格したが、むしろ勉強せずに地元にとどまっていたほうが大金持ちになるのでは......という小話からコラムは始まっている

建築現場の作業員の写真。その下には次のように書かれている。「雄安新区結婚相手募集広告。男。53歳。離婚歴あり。子どもなし。農村戸籍。雄県に2ムー(0.13ヘクタール)の土地を保有。希望する女性は25歳以下、米英留学経験者を優先」

これだけ見ても何が面白いのかは日本人には理解は難しいだろう。野暮を承知でジョークを解説すると、「53歳。離婚歴。農村戸籍」という、中国の基準で言うならば結婚したくない男性のトップクラスに位置する男性が、雄安新区にちょこっと農地を持っているだけで、結婚したい男のトップクラスに変貌。若く高学歴の女性と結婚したいとわがままを言えるようになったという皮肉だ。

雄安新区バブルの過熱ぶりを一発で理解させるとともに、庶民の人生など国の政策一発で天国と地獄が入れ替わってしまうのだという諦観をも感じさせる。

【参考記事】庶民の物価ジョークから考える中国経済改革の行方

超特大都市の人口抑制方針に沿った計画だが

というわけで雄安新区バブル狂騒曲が話題になったのだが、そもそも習近平総書記は何を目的として新たな新区を設立しようとしたのだろうか。

冒頭で紹介したとおり、雄安新区は深圳経済特区、上海浦東新区に並ぶ存在とされている。鄧小平の指示による深圳経済特区は1980年の成立。関税の免除や企業経営の規制緩和などをいち早く進め、中国が「世界の工場」へとのしあがっていく先駆けとなった。江沢民肝いりの上海浦東新区は1993年の成立。外資による金融、小売り分野への投資規制を緩和することで中国市場の開放を進め、サービス業や金融の発展を加速させた。

【参考記事】遼寧省(の統計)に何が起きているのか?

では雄安新区はいったい何をもたらすのだろうか?

正解は「渋滞や土地不足などの"大都市病"の緩和」である。大都市部に人口が集中すれば、水や電気、病院、学校などさまざまなリソースが不足し交通渋滞などの社会問題を引き起こすとして、中国政府は人口1500万人以上の超特大都市の人口を抑制する方針を打ち出している。中心部の人口を2014年比で15%減少させる方針を打ち出している。

また、副都心計画も以前から取りざたされていた。移転対象はどの省庁、どの部局か。どの大学が北京市から放逐されるかなどは何年も前から話題となっていた。目端の利く人間ならば、河北省雄県、容城県、安新県の一体が候補地になっていたことは知っていたはずだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米ウクライナ、鉱物協力基金に合計1.5億ドル拠出へ

ワールド

中韓外相が北京で会談、王毅氏「共同で保護主義に反対

ビジネス

カナダ中銀、利下げ再開 リスク増大なら追加緩和の用

ワールド

イスラエル軍、ガザ市住民の避難に新ルート開設 48
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    「60代でも働き盛り」 社員の健康に資する常備型社…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中