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映画

ケン・ローチが描くイギリスの冷酷な現実

2017年3月17日(金)10時40分
ジューン・トーマス

ある日、職業安定所で1人の女性が冷淡な扱いを受けているのを見かねて割って入る。2児の母であるケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)は面談に遅刻したことを理由に厳しい措置を言い渡され、最低限の生活に必要なお金にも事欠いている。新しい町に来たばかりでバスの仕組みが分かっていなかったのだが、職業安定所はそうした事情を考慮してくれない。

ベテラン映画監督のローチは筋金入りの左派で、非合法の人工妊娠中絶、死刑制度、スペイン内戦、北アイルランド問題などの数々の社会問題や、経営者による労働者の搾取をテーマにした作品を撮り続けてきた。

【参考記事】オスカー作品賞「誤」発表の大トラブル、その時何が起こったか

これまでの作品で労働組合の意義を訴えてきたローチは、今作ではほかの人を助けようとする人たちをたたえている。地域のフードバンク(寄付で集めた食料を貧困者に配布する施設)をつくったり、病気の友達の世話をしたり、途方に暮れた老人にコンピューターの使い方を教えたりする人たちは、労働組合の団結が失われた暗い時代に差す一筋の光と位置付けられる。

英政府は昨年秋、障害者手当の審査を緩和することを発表した。厳しい審査が多くの自殺者を生んでいるとの指摘があることが、理由の1つだった。この映画が公開された影響もあったのかもしれない。

アメリカの観客は、ダニエルの医療費を国が負担してくれるだけましと思うはず。そんな意味でもさまざまな人の心に訴え掛ける作品と言えるだろう。

[2017年3月21日号掲載]

<映画情報>
I, DANIEL BLAKE
『わたしは、ダニエル・ブレイク』

監督/ケン・ローチ
主演/デーブ・ジョーンズ
   ヘイリー・スクワイアーズ
日本公開は3月18日

© 2017, Slate

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