最新記事

大気汚染

大気汚染に悩む中国 情報公開による規制強化と社会不安でジレンマ

2017年2月20日(月)16時08分

2月16日、健康を害する大気汚染との「闘い」において、中国政府はジレンマに陥っている。北京で1月撮影(2017年 ロイター)

健康を害する大気汚染との「闘い」において、中国政府はジレンマに陥っている。汚染排出者に責任を取らせるためには汚染データを公開しなければならないが、政府の公式発表ではない独立機関からの悪いニュースがあまりにも多ければ、社会不安を招きかねないからだ。

中国政府はデータの収集方法を大幅に改善しており、その情報公開も進め、虚偽報告を取り締まっているが、その一方で、携帯端末向け人気アプリや携帯型計測装置による、未公認ないし不正確なデータが広まることを懸念している。

この矛盾したアプローチには、中国の政治改革の方向性をめぐる、より幅広い議論が反映されている。学界出身のトップが率いる環境保護部(MEP)は、独立した監視機構と法の支配に基づく現代的な規制制度の創設を望んでいる。だがそうなると、安定性を最優先に考える共産党政権の機嫌を損ねる可能性がある。

またデータ捏造をめぐる複数のスキャンダルもあり、政府は代替的な情報源が汚染レベルを伝えることで公式統計に対する国民の信頼感が損なわれ、「環境は改善されている」との政府メッセージが揺らぐことを懸念している。

北京のアップルストアで販売されている携帯型の汚染測定装置「レーザー・エッグ」を製造するオリジンズ・テクノロジーのリアム・ベイツ最高経営責任者(CEO)によれば、中国当局は、市民による大気汚染測定を何ら問題視していないという。ただ、その測定結果が公開されることを嫌がっているだけだ、と同CEOは語る。

「基本的に(中国は)非公式な情報源からのデータ公開は違法だとしている。私の知る限り、研究目的でのデータの収集や、処理、利用については問題はない」とベイツCEOは言う。

中国政府は、データの精度が主な懸念点だと主張する。

2014年、中国政府は、米国大使館や領事館が提供する大気汚染データは政府公式データと食い違っている懸念があるとして、携帯電話用の汚染計測アプリで、それらのデータを使わないよう命じた。最近では、政府が提供するものよりも詳細な国内大気汚染状況を提供しようとしたアプリが捜査の対象になっている。

個人による「風説ビジネス」と政府が表現する最近の例では、中国南西部の成都で男性1人が5日間警察に拘束された。地元メディアによれば、この男性は中国版ツイッターの微博に、成都は「2000年の歴史で最悪のスモッグ」に見舞われていると警告したという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

KKR、今年のPE投資家への還元 半分はアジアから

ビジネス

ニデック、信頼回復へ「再生委員会」設置 取引や納品

ビジネス

スイス中銀の政策金利、適切な水準=チュディン理事

ビジネス

アラムコ、第3四半期は2.3%減益 原油下落が響く
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中