最新記事

現場ルポ

「冷静に、理性的に」在日中国人のアパホテル抗議デモ

2017年2月6日(月)15時04分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

カウンターデモ側からは拡声器でヘイトスピーチも

デモ隊の移動前から保守系団体などによる抗議が始まった。「没有共产党才有新中国」(中国共産党がなくなって初めて新中国が生まれる)と書かれたプラカードを掲げたり小さな日章旗を振ったりと、静かに抗議の意志を表明する人も少なくなかったが、拡声器を使った抗議が実際の人数以上に目立ったことは否めない。

現場は保守系団体側の抗議と警官の声だけが聞こえる空間となった。「支那人は帰れ」「チャンコロ」といったヘイトスピーチが聞かれたほか、横断幕を奪おうと警官隊を突破してデモ隊に近づこうとする者もいた。中国メディアはデモ隊だけではなく、こうした抗議者も撮影し報道している。

環球時報はウェブ版に速報を出しているが、ここでも「中国人は冷静に抗議した。騒ぎ立てる日本右翼が見にくい姿をさらしたと、ある日本人ツイッターユーザーは評価している」と記述。日本人の言葉を借りる形で、冷静な中国人と非理性的な抗議者という対照で報じた。

takaguchi170206-3.jpg

環球網(環球時報ウェブ版)が微博に掲載した動画(こちらで見られます)。書き込みは以下のとおり。「#華人アパホテル抗議デモ 在日華人がアパホテルに抗議するデモを行い、右翼の妨害を受けた。記者の目測では妨害に集まった日本右翼人士の数はデモ隊を上回っていた。」

中国のデモというと、2012年9月に中国各地で起きた反日デモが想起される。一部が暴徒化し破壊行為を繰り返した姿は日本でも大きく報道され、中国に対する反発が高まった。当時、在日中国人には肩身の狭い思いをした人も多かっただけに、今回のデモでは徹頭徹尾理性的な姿を見せ、また反日ではないことをアピールしようという思いがあったのではないか。

今回のデモに関する報道は5日夜現在、中国の大手検索ポータルサイト・百度のトップニュースに掲載されるなど注目ニュースの扱いで報じられているが、微博など中国のSNSではまだ大きな反響を呼んでいないようだ。

大手ポータルサイト・新浪網の微博ニュースアカウント「微天下」が現場写真を掲載しているが、コメント数は1400コメントにとどまっている。若者たちの行動を称賛する言葉だけではなく、「中国人がデモの権利を行使できるのは資本主義国でだけ」「日本人が中国でデモをすることはできるのかね」といった揶揄も少なくない。

新宿中央公園を出発したデモ隊は約1時間をかけて、アパホテル〈新宿御苑前〉まで行進した。併走した抗議者以外に別の抗議者がアパホテル前に陣取っていたため現場は混雑したが、警察がアパホテルに通じる道路を封鎖し衝突を避ける万全の対策を取っていたため大きな混乱はなかった。今回のデモは罵声を浴び続ける異様な状況となったが、冷静かつ理性的な行動を最後まで保っていた姿が印象的だった。

「アパホテル問題」の関連記事一覧

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国防長官、イランの濃縮ウラン移動情報認識せず ト

ワールド

ロシア軍、ウクライナ東部でリチウム鉱床近くの集落を

ビジネス

米国株式市場・午前=S&P・ナスダック過去最高値に

ビジネス

「影の」FRB議長、金融政策決定に影響与えず=シカ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 2
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉仕する」ポーズ...アルバム写真に「女性蔑視」批判
  • 3
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事実...ただの迷子ですら勝手に海外の養子に
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    単なる「スシ・ビール」を超えた...「賛否分かれる」…
  • 10
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中