最新記事

中国軍事

中国、次は第二列島線!――遼寧の台湾一周もその一環

2017年1月12日(木)16時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 かつて日本のアニメや漫画などのサブカルチャーが中国を席巻したことから、日本語の「オタク」という言葉が中国に上陸して愛用されているが、この「オタク」を、勇ましい言葉をちりばめた中国共産党の機関紙「人民日報」に使っているのは、何とも苦笑を禁じ得ない。

 ウクライナから購入した旧ソ連製の未完成艦体「ヴァリャーグ」を2012年から改造し始め、航空母艦として「完成」させた「遼寧」が決して日本製の「オタク」ではないとして論を張る字面が、何とも現在の中国を象徴していると映る。

 しかし「オタク」でないと表現した事実は大きい。

 これはつまり、「第一列島線に留まるだけでなく、どこにでも行く」すなわち「第二列島線にでも出ていく」という意思表示だ。

対馬海峡を通過した中国艦3隻も、この一環

 日本の防衛省は1月10日、中国軍のフリゲート艦2隻と補給艦1隻が対馬市(長崎県)沖70キロの日本海を南西に向かって進んでいるのを確認したと発表した。それによれば、「3隻はその後、対馬海峡を通って東シナ海に抜けた。9日には、爆撃機など同国軍機計8機が東シナ海から同海峡を通って中国・近畿地方の沖合まで飛行しており、中国軍が、日本海で艦艇と航空機による訓練を行っていた可能性がある」とのこと。

 防衛省では、航行の意図を分析しているとのことだが、これらはすべて「やがて第二列島線へ」という中国の戦略の一環で、その背景を把握していると、分析が容易になるだろう。

 第一列島線というのは、1982年に鄧小平の指示を受けた人民解放軍の海軍司令員だった劉華清が中国防衛のために名づけたもので、日本列島から沖縄、台湾、フィリピンをつなぐ対米防衛ラインを指す。

 第二列島線というのは、伊豆諸島を起点に、グアム、パプアニューギニアに到る対米防衛ラインで、台湾有事の際にアメリカ海軍の支援を阻止する海域と、中国は位置付けている。

 この戦略に関しては、「ここ」にある地図をご覧いただきたい。

 中国は2020年までに第二列島線を完成させ、2040年~2050年頃までには西太平洋、インド洋で米海軍に対抗できる海軍を建設する計画を描いていたが、このたびのトランプ次期大統領の「一つの中国」懐疑論に関する発言や、台湾の蔡英文総統の米国経由外交などに対する警戒から、その時期を早める戦略に出ているようだ。

今年は中国人民解放軍建軍90周年記念

 2017年8月1日は中国人民解放軍の建軍90周年記念日に当たる。

 2016年1月2日の本コラム「中国、軍の大規模改革――即戦力向上と効率化」で書いたように、中央軍事委員会の習近平主席は2015年12月31日、中国人民解放軍本部の「八一大楼」で「陸軍指導機構、ロケット軍、戦略支援部隊」創設大会を開催した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日鉄、USスチール貢献は9カ月で800億円 今期は

ビジネス

日本製鉄、株式を5分割 最低投資金額6万円程度に

ビジネス

国内百貨店4社の7月売り上げ前年下回る インバウン

ビジネス

テスラ7月新車販売、仏スウェーデン・デンマークで7
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 9
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 10
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 8
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中