最新記事

中東和平

大統領最後の日、オバマはパレスチナに2億ドルを贈った

2017年1月25日(水)19時30分
ジャック・ムーア

トランプ新大統領を残し、軍用ヘリでホワイトハウスを去るオバマ夫妻 Rob Carr-REUTERS

<オバマ前大統領は任期最後の日、パレスチナの人道支援や国家再建に使うための2億ドルを拠出した。親イスラエル派のトランプ新大統領が、今はテルアビブにあるアメリカ大使館を、パレスチナもいずれ首都にしたいと望んでいるエルサレムに移すと唱え、入植支持の強硬派を米大使に指名するなど、物騒な動きを見せているからだ>

 バラク・オバマ前大統領はその任期最終日に、2億2100万ドルをパレスチナに拠出していたことがわかった。

 米議会で承認されていたパレスチナ自治政府への資金拠出を、米国務省が実行に移した形だ。パレスチナ自治政府は、ヨルダン川西岸を統轄するマフムード・アッバース大統領が率いる自治機関だ。

 この資金は、米国際開発庁が拠出したもので、西岸地区とガザ地区での人道支援を目的としている。将来的にパレスチナ国家が樹立される場合に、国土再建を支援する意図もある。

 パレスチナへの資金拠出は、2015年と2016年に議会で承認されたものだが、多数派の共和党議員が拠出の実施に反対していた。この反対には法的拘束力がないため、オバマ政権は、1月20日にドナルド・トランプ新大統領がホワイトハウス入りする数時間前に手続きを進めた。

 表向きは餞別のこの資金拠出は、イスラエルでは、ベンヤミン・ネタニヤフ首相に対する最後の一矢と受けとられるだろう。オバマとネタニヤフの関係は、オバマ政権時代を通じて悪化していた。

中東が再び緊張

 オバマとネタニヤフは、イスラエルが国家の生存に不可欠と見なすいくつかの問題をめぐって衝突していた。オバマ政権は2015年7月のイランと核協議で経済制裁の解除に最終合意したが、イランを仇敵と見なすネタニヤフには許せないことだった。そのネタニヤフは、オバマがパレスチナとの和平協議の基本とみなす「2国家共存」を無視し、ヨルダン川西岸などへの入植を進めた。オバマ政権は2016年9月、イスラエルに380億ドルという史上最大規模の軍事支援を決めたが、それでも両者の関係は冷え切ったままだった。

 オバマは2016年12月、イスラエルの入植活動を非難する国連安保理決議で、拒否権を「行使しない」ことで決議を成立させた。東エルサレムと西岸地区におけるイスラエルの入植活動は、国際社会の大半が国際法違反と考えている。パレスチナは国際社会と同意の上、両地区ともが将来のパレスチナ国家の国土になると見なしている。ネタニヤフは入植非難に拒否権を発動しなかったオバマの決定を批判し、決議案成立には米政府がイスラエルに隠れて根回していたと非難した。

【参考記事】イスラエルの入植に非難決議──オバマが最後に鉄槌を下した理由


 オバマが大統領としての最終日にパレスチナ寄りのジェスチャーを見せた背景には、トランプの政権移行チームが、在イスラエル米国大使館をテルアビブからエルサレムへ移すと公言していたという状況がある。エルサレムは将来のパレスチナ国家の首都としても望まれている聖地であり、もし実行されれば、和平協議は完全にとん挫しかねない。

 トランプは大統領選挙中から親イスラエルの発言を繰り返しており、トランプが当選すると、イスラエルは入植拡大を支持したほど。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物は上昇、米原油在庫が予想外に減少

ワールド

ノルウェー、UNRWA支援再開呼びかけ 奇襲関与証

ワールド

米上院、ウクライナ・イスラエル・台湾支援法案を可決

ワールド

全米の大学でイスラエルへの抗議活動拡大、学生数百人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中