最新記事

米軍事

ツイートするのは簡単でも実現は困難な核軍拡

2016年12月29日(木)12時00分
ジェフリー・ルイス(ミドルベリー国際大学院東アジア不拡散プログラム・ディレクター)

REUTERS

<米軍の核のアップグレードには1兆ドルが必要だが、トランプはどうやってそのコストを捻出する気なのか>(写真:アメリカが保有する大陸間弾道ミサイルの補修作業)

 ドナルド・トランプ次期米大統領はクリスマス前にアメリカの核戦略の見直しについてツイート。「世界が核に関して理性を取り戻すまでアメリカは核戦力を大幅に強化、拡大すべきだ」と宣言した。

 ツイッターの文字制限140文字を使い切り、句読点を入れる余地さえなかったこのツイート。残念ながら絵文字もなかった。おバカな絵文字1つでざっくり内容を伝えられたはずだが。

 ツイートの背景には軍高官の入れ知恵がありそうだ。トランプはフロリダ州での休暇中に自身が所有する高級リゾート施設に軍の要人を招いて会談。「今日は実に偉大な空軍と海軍の将官と会った。とても立派な人たちだ」とツイートした。

 それまでトランプは国防費の無駄を削る姿勢をアピールしてきた。最新鋭の戦闘機F35の調達を中止して戦闘攻撃機F/A18スーパーホーネットで代替する考えも示した。

 その一方で、核軍拡をぶち上げるとはどういうことなのか。

【参考記事】中国が笑えない強気で短気なトランプ流外交

 爆弾発言でメディアを騒がせ、批判を浴びれば、さらに強気の発言をするのがトランプ流だ。今回もニュース番組の司会者に軍拡競争を始める気かと聞かれ、「軍拡競争、大いに結構。やろうじゃないか」と開き直った。

 トランプは核戦力でロシアのプーチン大統領を羨んでいる節がある。核では今、ロシアが「断然トップ」だとツイートして物議を醸したこともある。

 トランプにとってアメリカ大統領の最高の特権の1つは核のボタンを押せること。核のボタンもトランプ・タワーやゴージャスな妻と同様、自尊心を満たしてくれる。わずか数分で人類を滅亡させる力を持つことは究極のステータスシンボルだ。ボーイング社に大統領専用機を値切り、F35の調達費をケチるトランプも優越感を味わうためなら惜しみなく散財する。

無謀な指揮官の危うさ

 だがトランプの言う核の大幅増強は現実的な選択肢なのか。

 アメリカの核戦略を支える3本柱――戦略爆撃機、大陸間弾道ミサイル、ミサイル潜水艦をすべて入れ替える計画は既に進んでいる。新型爆撃機B21や巡航ミサイルLRSO(長距離スタンドオフ)の開発などはその一環だ。トランプがコストカットの標的にしているF35もそう。将来的には戦術核が搭載される予定だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ

ワールド

米首都で34年ぶり軍事パレード、トランプ氏誕生日 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中