最新記事

医療

おなかのわが子とVRでご対面

2016年12月28日(水)11時00分
ジェシカ・ファーガー(ヘルス担当)

Radiological Society of North America

<これまでの超音波画像よりはるかにリアルな胎児の画像が見られる。この新技術が新生児の命を救うとの期待もある>

 出産を控えたカップルから自慢げに「わが子」の写真を見せられた経験がある人は多いはず。しかし、おなかの中の胎児を映し出す超音波画像はどうにもパッとせず、親戚や友人がどういう顔をすればいいか困惑することも多い。

 もっとリアルで「かわいい」画像が見たい――そんな願いが近い将来、現実になるかもしれない。

 ブラジル・リオデジャネイロの病院「クリニーカ・ジ・ジアグノスティコ・ポール・イマジェム」の研究チームは、MRIと超音波を使い、胎児とへその緒と胎盤の正確な3Dモデルを作ることに成功した。バーチャル・リアリティー(VR)用のヘッドセット「オキュラス・リフト2」を装着すると、VRで子宮の中の胎児の様子を見ることができる。

 これが普及すれば、おなかの中の赤ちゃんがパパに似ているかママに似ているかといった会話が弾むかもしれない。ただし、恩恵はそれだけではない。妊娠初期の段階から胎児の形態異常を見つけられることも期待されている。

【参考記事】「より多く女性を生かしておく」ように進化したウイルス。その理由は?

「親たちに新しい経験を提供できることに加えて、いくつかの病理上の問題について専門分野を超えた議論をする上でも役立つ」と、胎児医学の専門家でこの研究のリーダーでもあるエロン・ウェルネル医師は言う。

 例えば、胎児の気道が何らかの理由で塞がれていて命が脅かされる危険があっても、早い段階で察知できる。将来、テクノロジーがさらに進歩すれば、重要な臓器の3D画像もVRで見られるようになる見込みだという。ウェルネルは先月、北米放射線学会の年次総会でこれからの成果を発表した。

 ウェルネルはこれまでに、この新技術を使って胎児10人の3Dモデルを作成してきた。それをチェックすることにより、先天性の異常が見つかった赤ちゃんもいた。

 3Dモデルによって医師は母親のおなかの中の赤ちゃんをモニタリングし、顔面や口の異常など呼吸を妨げる要因がないかを前もって確認できるようになると、小児放射線学会の胎児画像委員長を務めるベス・M・クラインファスは言う。「事前に準備しておくことで、分娩時にすぐに気道にチューブを挿入できる」

 この新しいテクノロジーは、パパとママを楽しませ、超音波写真を見せられて反応に困っていた親戚や友人たちを救うだけではない。新生児の命も救える可能性があるのだ。

[2016年12月27日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ナスダック下落、与野党協議進展の報で

ビジネス

政策不確実性が最大の懸念、中銀独立やデータ欠如にも

ワールド

トランプ氏、ハンガリー首相と会談 対ロ原油制裁「適

ワールド

DNA二重らせんの発見者、ジェームズ・ワトソン氏死
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 8
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中