最新記事

エアライン

旅行シーズン、機長の精神状態は大丈夫?

2016年12月19日(月)17時30分
ジェシカ・ファーガー

teamtime-iStock.

 旅行シーズンのたびに、多くの人が空を飛ぶリスクにストレスを感じながら飛行機に乗り込む。事故が怖いという人もいれば、テロに遭う可能性に気を病む人もいる。ところが、操縦桿を預かるパイロットの精神状態を気にする人はほとんどいない。

 生物医療専門の出版社、英バイオメド・セントラルのオンラインジャーナル「環境健康(Environmental Health)」に14日に掲載された論文で、パイロットの精神状態を憂慮すべき理由が明らかになった。匿名を条件に1848人のパイロットにネットで調査した結果、回答者の12%以上がうつ病を患っていたのだ。調査までの2週間に自殺を考えたことがある回答者は4%。精神的苦痛の症状は、女性より男性パイロットの方が顕著だった。

ストレスが強い職業

 最近では15年3月に、うつ病の既往歴があった格安航空会社ジャーマンウィングスの副操縦士が、スペインのバルセロナからドイツのデュッセルドルフに向かう途中に故意に機体を墜落させ、乗客乗員150名が犠牲になった事故が記憶に新しい。

【参考記事】快適からどんどん遠ざかる空の旅

「パイロットという仕事は比較的ストレスが強い職業だ」というのは、ハーバード大学公衆衛生大学院の博士課程に在籍するアレクサンダー・ウーだ。旅客機のパイロットはうつ病と自殺のリスクが高いという。「法的機関や人命救助に携わる職業、元軍人などを対象にした複数の研究結果と見比べたところ、パイロットもそうした職業と同水準のリスクを抱えていた」。それらの職業全体で見ると、うつ病と自殺のリスクは7~17%に上るという。

 特定の職種で、うつ病になる可能性が一般よりも高くなることは知られている。12年におけるアメリカ全体の自殺率は10万人につき12.6人、農家と元軍人は15.2人だ。

 ウーらの論文の基になっているのは、ハーバード大学が実施した「パイロット・ヘルス・スタディー」として知られる大がかりな研究。その目的は、パイロットという職業が心身の健康に対してどのような影響を及ぼすかを解明することだ。精神状態に関する質問事項は、うつ病の診断にも利用されるアメリカ疾病管理予防センターの内容に合わせている。

【参考記事】時差ボケには機内でさようなら

 研究結果について、今回調査対象になったのは世界13万人と言われるパイロット人口のうちの「ほんの一握り」だとウーは念を押した。「研究の目的は飛行機に乗るのを人々に躊躇させることではない。公共の交通手段の中で、飛行機の安全性の高さは昔も今も断トツだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CB景気先行指数、8月は予想上回る0.5%低下 

ワールド

イスラエル、レバノン南部のヒズボラ拠点を空爆

ワールド

米英首脳、両国間の投資拡大を歓迎 「特別な関係」の

ワールド

トランプ氏、パレスチナ国家承認巡り「英と見解相違」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中