最新記事

欧州

フランス、ドイツの「地味系保守」が最後の希望に

2016年12月2日(金)10時40分
ジョシュア・キーティング

Hannibal Hanschke-REUTERS

<民主主義が危機に立たされている今、最後の希望となるのは、民主主義大国フランスとドイツで行われる選挙の「地味な」保守勢力だ>(写真:メルケルは「退屈な保守」?)

 トランプ次期米大統領が差別主義者を側近に起用し、イギリスがブレグジット(EU離脱)で漂流し、東欧諸国がロシアのプーチン政権に次々と追随する。国際秩序と自由民主主義は今、危機に立たされているようだ。

 こうした状況でいっそう注目されるのが、民主主義の大国フランスとドイツで来年行われる選挙。現状打破が懸かる選挙で最後の希望となるのは......地味ながら、「欧州の保守」だろう。

 フランスでは先週、来春の大統領選に向け野党・共和党の予備選が行われ、フィヨン元首相とジュペ元首相が決選投票に進むことが決定。サルコジ前大統領は敗退した。

【参考記事】フランスに極右政権誕生!を防ぐのはこの男?

 1位のフィヨンは緊縮財政や移民制限を掲げ、左派にとって理想的とは言い難い。だがオランド大統領の不人気で左派与党・社会党は分裂。大統領選の決選投票は共和党候補と極右・国民戦線のルペン党首が争う可能性が高い。極右を勝たせたくない一心の左派が渋々ながら保守支持に回り、共和党が勝利すると見込まれるが、米大統領選や世界の流れを見ると、その展開すら危ぶまれる。

 ドイツでは先週、メルケル首相が来秋の連邦議会選に立候補し、首相4期目を目指すと発表した。今すぐ選挙が行われればメルケルの中道右派キリスト教民主同盟(CDU)が勝利する可能性が高いが、難民政策への反感はくすぶり続けている。

 国民の不満に付け込み躍進しているのが、反移民の極右「ドイツのための選択肢(AfD)」。9月には、メルケルの選挙区であるメクレンブルク・フォアポンメルン州の州議会選で、CDUの得票率を上回った。

 世界を不確実性が襲うなかで、メルケルの鈍感さやカリスマ性の乏しさ、時に欧州諸国の反感も招くリーダーシップは、安定した「不変性」だった。オバマ米大統領が退任した後はほぼ間違いなく、メルケルこそが自由と民主主義の最後にして最大の守護者になるだろう。

 メルケルは立候補表明に当たり、「私たちの価値観と生き方を守るために戦う」と宣言した。これは政治家がよく使う常套句だが、今回ばかりは文字どおりに受け止めてよさそうだ。

© 2016, Slate

[2016年12月 6日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 8

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中