最新記事

日本社会

自治体ごとの出生力の多様性:出生数・出生率のデータを細かく見てみる

2016年11月28日(月)17時20分
筒井淳也(立命館大学産業社会学部教授)

都道府県と市町村、どちらのちらばりが目立つ?

 ここでひとつ疑問が湧いてきます。都道府県のレベルと、都道府県内の市町村のレベルでは、どちらのばらつきの方が大きいのでしょうか?

 ここで、心理学や計量社会学でしばしば用いられる「級内相関係数」という指標を使って、ばらつきを数値化してみました(表1)。たとえば出生率の0.48という数値は、全国の自治体1,893個の自治体における出生率のばらつき(分散)のうち、都道府県水準の分散で説明できる割合が48%だ、ということを示しています。

1128tutui4.jpg

表1 関連数値の級内相関係数

 48%という数値はそれほど小さくありませんが、他方で出生率の違いの半分以上は都道府県<間>ではなく都道府県<内>の自治体の違いなのです。この数値は、出生数その他の関連数値においてはより小さくなります。ということは、都道府県レベルの違いで説明できることがそれほど多くないということです。

少子高齢化対策との関連性

 社会保障制度は、国と市町村、そのあいだにある都道県などの広域単位といった、異なった水準で財源調達と運営がなされています。ただ、制度としては(自治体ごとの一定の多様性はあるにせよ)全国一律のものが柱になっています(たとえば児童手当や育児休業制度など)。

 ただ、留意すべきは、都道府県、さらにその下の自治体ごとに社会・経済・人口の面でかなりの異質性がある、ということです。異質な環境に対して一律の制度介入を行うことは、公平ではあっても効率は良くない可能性があります。

 たとえば、出生力の観点から見れば出産可能年齢(通常は便宜的に15-49歳だと定義されます)女性の数と比率が強い関連指標になりますが、この比率が低くて人口も少ない自治体、比率が高くても人口が少ない自治体、どちらも高い自治体、こういった自治体の特徴ごとに考えられる対策は全く異なってきます(参考までに、人口が多いのに出産可能年齢女性比率が低い自治体は存在しません)。

 参考までに、生産年齢女性比率が0.4より大きいか小さいか、同人口が5万人より多いか少ないかの2つの基準で、自治体を3つのタイプに分けてみました(比率が0.4より低くて同人口が5万人より多い自治体は30個しかなかったので、ここでは考慮していません)。これらのカテゴリーごとにいくつかの数値の平均値を出してみました(表2)。

1128tutui5.jpg

表2 生産年齢人口女性カテゴリーごとのいくつかの平均値(産業従業者比率のみパーセンテージ)

 2番目のカテゴリーの自治体は、若い女性を含めた人口規模はそれほど大きくないが、若い女性の人口割合も高いという場合です。たいていは大都市近郊にあるベッドタウンです。この場合、それほど悩む必要はないかもしれません。人口に見合った福祉・公共サービスを維持できる見込みが相対的に高いからです。課題は、若い女性の流出をいかに「食い留める」ことができるかにあるでしょう。

 より深刻なのはその他の2つのパターンです。表の一番上のカテゴリーは、若い女性が絶対数も比率も少ない自治体ですが、これらの自治体は三世代世帯比率も高く、また農林水産業が中心です。課題は、若い女性の流出を留めることに加えて、「呼びこむ」ことにあるでしょう。

 東京都の自治体に典型的ですが、若い女性がたくさんいて、人口比も大きい自治体(三番目)の場合、若い女性を吸収する力はあるので、いかに出生率を上げていくのかが課題でしょう。

 さらに、こういった全国都道府県水準における多様性と同等以上に、都道府県<内>の自治体の多様性がある、ということを再確認しておく必要があります。「うちの県は総じて◯◯といった課題がある」ということ以上に、都道府県内の各自治体の課題が異なってくる、ということです。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英賃金上昇率、22年5月以来の低水準 雇用市場に安

ワールド

インドネシア大統領、トランプ氏に「エリックに会える

ビジネス

イオン、3―8月期純利益は9.1%増 通期見通し据

ビジネス

アサヒGHD、決算発表を延期 サイバー攻撃によるシ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 9
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 10
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中