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都会の部屋は「狭い」がクール

2016年11月15日(火)11時15分
ジョナサン・グランシー(建築・デザイン担当)

Thomas Peter-REUTERS

<ロンドンやニューヨークにもミニ住宅が登場。若者たちの重要が支える狭小アパートブームの行方は?>(写真:マイクロアパートの先駆けだった東京・銀座の中銀カプセルタワー〔2014年〕)

 ロンドン北部の少し寂れた地区サマーズタウンに近い将来、「タワーマンション」が登場する。25階建てのブリルプレース・タワーだ。

 ただし、ブリルプレースは普通のタワーマンションではない。設計した建築デザイン事務所dRMMが「マイクロタワー」と呼ぶ建物は細長いビルを2つ組み合わせた形で、敷地面積はわずか350平方メートルほど。ロンドンのサディク・カーン市長が後押しする地区再生計画の一環で、今年6月に建築許可が下りた。

 建築の好みは人それぞれとはいえ、ブリルプレースは時代の先端を行く物件だ。完成した暁には、この狭い建物に54戸の「ユニット」、つまり寝室が1つまたは2つの住戸が誕生する。

 民間の不動産開発事業だから販売価格は安くないはずだが、広さは期待できない。dRMMによれば、最も狭い住戸の面積は約54平方メートルだ。

【参考記事】<写真特集>人間と自然が再びつながるビル緑化

 世界の大都市にはさらに狭い物件もある。例えばニューヨークのマンハッタン南部に今年完成した9階建ての集合住宅、カーメルプレースは市内初の「マイクロアパート」。マイケル・ブルームバーグ前市長時代に推進された低・中所得層向け住宅建設の第1弾として、建築事務所nアーキテクツが設計した。

 総戸数55戸のカーメルプレースの賃料は最低でも月額2650ドルだが、大半の部屋は24平方メートルほどの広さしかない。これだけの面積にシャワーやキッチン、収納も備えた賢い間取りは、部屋というより「通路」に暮らす印象だ。

 こんな超ミニサイズの住居が建てられる背景には、若者にとってはカフェやカルチャーの場がひしめく都市全体が生活空間だから、自宅は狭くても構わないという考え方がある。

 世界各地の都市で人口が急増するなか、若者や生活の縮小を望む退職者のニーズに見合った住宅の需要は大きい。となれば、狭小アパートが流行するのは当然の流れだ。

 こうした動きは目新しいものではない。都市に「狭くて便利」な住居を建設する試みは、1世紀ほど前から何度か行われている。

狭小の元祖は銀座の中銀タワー

 日本では60年代後半、手頃な家を求める若年層やサラリーマン家庭が郊外の住宅地へ流出し、通勤ラッシュが深刻化した。問題を解決すべく建設されたのが、東京・銀座にある中銀カプセルタワービルだ。

 建築家の黒川紀章が設計し、72年に竣工したこの集合住宅は、プレハブ式の140のカプセル(部屋)をコンクリートコアシャフトにボルトで固定する構造で、理論上はカプセルの交換も可能だ。各カプセルの床面積は10平方メートル。室内には作り付けの家具や電化製品、超ミニサイズのユニットバスがある。

 ミニ自動車やミニスカートが流行し、テクノロジーの進歩が全面的に肯定されていた当時、中銀カプセルタワーは称賛された。だが今では、立派なオフィスビルに囲まれて哀れな姿をさらしている。

 給湯設備が老朽化したため、建物内では数年前から温水が使えない。おしゃれな未来空間だったカプセルの多くは、今や閉鎖されたか、倉庫や事務所と化している。

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