最新記事

貿易

ペルーAPECで習主席FTAAP強調――北京ロードマップ

2016年11月21日(月)17時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 一方、FTAAPはもともと2004年にカナダが提案したもので、2006年のAPEC首脳会議で「FTAAP構想に関する研究」を開始したときには、アメリカ(ブッシュ政権)は最も積極的にFTAAP構想を支持していた。東アジアで経済統合の動きが加速し続ければ、アメリカが排除された形での大経済圏が構築されることへの懸念が、当時のアメリカにはあったのだろう。ところが、その後、FTAAPには米中ともに加盟するので、「米中がFTA(自由貿易協定)を結ぶことにつながる」として、アメリカは「中国を排除したTPP締結」の方に舵を切ったと中国は認識している。

 その後の中米関係は、急激に冷え込んでいくのである。

 こういった流れと、ここ数日間のCCTVの報道、およびAPECでの習主席の発言を総合すると、中国には以下のような戦略があることが浮かび上がってきた。主としてCCTVの報道から分析するので、報道通り敬称は省略する。

 1.安倍はアメリカがTPPから脱退すれば、世界はRCEP(東アジア地域包括的経済連携)を中心に動くだろうと心配している。RCEPには日本も加盟しているが、参加16カ国(東南アジア諸国連合10カ国、中国、日本、韓国、インド、オーストリア、ニュージーランド)の中で、GDPで最も抜きん出ているのは中国。だから中国を中心に世界が動き始めると、安倍は焦っている。

 2.事実、TPP構想が崩壊するのを恐れたペルーは、中国に接近してRCEP加盟の意思を表明している。マレーシアもベトナムも同様だ。だから中国がRCEPで実力を発揮するのは事実だ。

 3.したがって中国はもちろんRCEPを推進してはいくが、しかしTPPに対抗し得るのはRCEPではなく、FTAAPである。RCEPはアメリカを排除しているので、アメリカがTPPに代わる、「中国を排除した」他の自由貿易圏を構築しようとしたときには、オバマ政権時代後半と同じになってしまう。それは別の形での経済的な対中包囲網の到来を招く。

 4.だからこそ習近平はリマAPECで、他国を排除しないFTAAPの推進を断固、強調したのである。FTAAPにアメリカが入っていることが「ミソ」で、TPP締結の可能性が薄れ、アメリカの次期政権が保護貿易の傾向に動く今だからこそ、中国主導型のFTAAP推進が重要なのである(中国の報道では、あくまでも「FTAAPは中国が主導する北京ロードマップ」と位置付けられている)。

背景には発展途上国「77カ国グループ」戦略

 習主席の「拉美之行」は「中南美之行(中南米の旅)」であり、エクアドル、チリそしてペルーに到る旅路の先に描いているのは「太平洋の両岸にまたがる77カ国グループをまとめあげる構想」だと、CCTVは解説した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中