最新記事

アフリカ

【写真特集】セネガルに巣くう学校という名の奴隷制

2016年10月24日(月)15時30分
Photographs By Mario Cruz

セネガルの首都ダカールにある宗教学校「ダーラ」でコーランを読む少年。彼らタリベと呼ばれる生徒たちは常に虐待の恐怖に怯えている

<西アフリカのセネガルにあるイスラム教のコーラン学校「ダーラ」では、教育は行われておらず、多くの少年が奴隷同然の扱いで毎日物乞いを強制されている>

 西アフリカのセネガルでは、あらゆる町にイスラム教のコーラン学校「ダーラ」がある。そこではタリベと呼ばれる多くの少年が、学校とは名ばかりの奴隷制に捕らわれて暮らしている。

 タリベたちの日課は通りに出て、長いときは1日8時間も物乞いをすること。平均日給が4ドルのこの国で、彼らは日に数ドルは稼ぐよう強制される。ダーラに戻れば宗教指導者「マラブー」が金を取り上げる。稼ぎが少ない者は殴られることになる。

 この学校で、ほとんど行われないことの1つが教育だ。礼拝や物乞いの間に空き時間があれば、コーランを暗唱させられる。間違えればまた殴られる。

 今は腐り切った都会のダーラだが、もともとはセネガルで11世紀から続く伝統的なイスラム教育機関だった。村人は息子を地元マラブーの元に送り、コーランを学ばせた。マラブーが少年に物乞いをさせても、あくまで謙虚さを育むためだった。

 この伝統が崩壊したのは1970年代半ばのこと。主要輸出品だった落花生産業の低迷により、地方から多くの農業従事者が都市部に流入し、ダーラの多くも都会に居を移した。

 都市部の路上でタリベの姿が目立つようになると、国内外の援助団体がダーラへの財政支援を行うように。皮肉にもこれが、「都市でタリベに物乞いさせようと多くのマラブーに思わせる」結果になったと、人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘している。

【参考記事】コンゴ「武器としての性暴力」と闘う医師に学ぶこと

ppsenegal02.jpg

北西部サンルイのセネガル川土手には逃亡したタリベたちが集まる

 そんなタリベたちの姿を昨年、写真に収めたのがポルトガル出身の写真家マリオ・クルスだ。「多くの少年が虐待を恐れ、夜も眠れずにいた」と、彼は言う。

 コーランの暗唱中、パニックで泣きだす少年を何人も見た。あるダーラでは、間違えた少年2人の顔をマラブーが殴り付けていた。別のダーラでは、最年少の少年が逃亡しないよう足かせをはめられていた。

「彼らは読み書きもできず、10歳以下でダーラに送られ、住む町に知り合いもいない」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの西アフリカ専門家コリーヌ・デュフカは言う。「逃げてもまた物乞いに戻る羽目になる」

 増員して利益を上げるため、人身売買組織を通じてギニアビサウなど周辺国から子供を買うマラブーもいる。セネガルの刑法では児童虐待や人身売買、子供への物乞いの強要などは犯罪とされるが、マラブーが裁かれることはめったにない。

 08年にはダーラを規制する法案が提出されたが、いまだに成立しないまま。法が整備されるまでは、捕らわれのタリベは危険を冒して逃亡するか、解放される18歳で物乞いを続けるしかない。

 長年の虐待に萎縮し、逃亡の意思すら失った多くの少年たちはより楽な道を選ぶ――奴隷主を太らせるため、今日も路上で物乞いをするのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国、和平合意迫るためウクライナに圧力 情報・武器

ビジネス

米FRB、インフレリスクなく「短期的に」利下げ可能

ビジネス

ユーロ圏の成長は予想上回る、金利水準は適切=ECB

ワールド

米「ゴールデンドーム」計画、政府閉鎖などで大幅遅延
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 9
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 10
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中