最新記事

環境問題

抗生物質が効かない耐性菌の「培養シャーレ」化するインドの湖

2016年10月9日(日)15時29分

ドクターレディーズとマイランを含む同地域の大手製薬会社は、いわゆるゼロ・リキッド・ディスチャージ(ZLD)技術を運用しており、廃棄物を敷地内で処理していると述べている。

マイランの広報担当者ニーナ・デブリン氏は、「マイランはいかなる廃液も環境中、掘削井やCETPに投棄していない」と語っている。

ドクターレディーズでは、排水を敷地内で再利用しており、すべての環境規制を遵守していると述べている。

ロイターの取材に応じた上述の業界関係者によれば、汚染管理委員会が工場の排水処理慣行をチェックすることは稀であり、しかも違反に対するペナルティは軽いという。

テランガナ州政府は、コメントの要請に応じなかった。

「一部の企業が許可されている以上の廃液を放出していることには気づいている。だが、彼らは営利企業だ」と同州PCBの広報担当者は語る。「われわれも違反企業に対して行動を起こそうとはしているが、製薬産業を潰すわけにはいかない」

さらに、もっと規模の小さい多くの企業は、高額な排水処理設備を導入するほどの資金を持っていないと同広報担当者は指摘した。

<懸念すべきリスク>

地元では、過去20年にわたり、製薬会社による環境汚染と地元当局によるチェックの甘さを告発する一連の訴訟が起こされている。一部の訴訟では村民に毎年補償金を支払うよう企業に命じる判決が出ているが、インドの複雑な司法制度のために、多くの訴訟はまだ係争中だ。

ワッハーブ・アーメドさん(50歳)は、Kazhipally湖の湖岸近くに約2万平方メートルの土地を保有しており、10年前までは、その土地で米作を行っていた。だが、近隣数カ所の製薬工場による産業汚染が悪化したことで、彼の土地では作物が取れなくなってしまったという。

「抗議や訴訟、あらゆることを何年もやってきた。そうやって何人かは、企業から年間約1700ルピー(約20ドル)受け取るようになった」とアーメドさんは言う。「だが今どき、そんなわずかな額が何になるのか」

アーメドさんが語る訴訟とは村民に代わってNGO(非営利組織)が提訴したもので、200社を超える企業が被告とされている。

農地汚染は、そこで生計を立てている村民にとって深刻な問題だが、メダック県の水系に薬剤耐性菌が潜伏している可能性は、もっと広範囲の意味を持つ。

多くの水系が生活排水に含まれる有害バクテリアで汚染されているインドにおいて、これは特に憂慮すべき問題だ。こうしたバクテリアが抗生物質に晒される頻度が高ければ、突然変異を起こして、抗生物質が効かなくなるリスクも高くなる。

懸念すべきリスクは、薬剤耐性を備えたバクテリアが人間に感染し、移動に伴って拡散していくことだ。これまで薬剤耐性菌における世界的な関心は、もっぱら、人間の医療及び農業における薬剤の大量使用に向けられていた。

「抗生物質の製造施設からの汚染は、薬剤耐性の原因として3番目に大きな要因となっている」とある世界最大手の製薬会社会長は語る。「しかしそれは、ほぼ見過ごされている」

(翻訳:エァクレーレン)



Zeba Siddiqui

[ハイデラバード(インド) 29日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮

ワールド

トランプ氏誕生日に軍事パレード、6月14日 陸軍2

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民

ビジネス

米製造業新規受注、3月は前月比4.3%増 民間航空
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中