最新記事

人道危機

シリア停戦崩壊、米ロ関係かつてない緊張へ

2016年10月4日(火)17時20分
デービッド・フランシス

Sultan Kitaz-REUTERS

<米国務省は3日、シリア内戦の解決を目指す米ロの2国間協議を停止すると発表した。両国の合意で停戦が発効した後も、アレッポの反体制派支配地域への攻撃を続けたからだ。これで、政治的解決はますます遠のいた> (写真は2年前のアレッポ。あと何年こんなことが続くのか)

 シリア政府軍とロシア軍がシリア北部の都市アレッポで病院などの医療機関も含めた民間人への爆撃を繰り返し、人道危機の様相がさらに深まったのを受けて、アメリカはシリア情勢の打開に向けたロシアとの協力を中止すると正式に発表した。ジョン・ケリー米国務長官を先頭にアメリカ政府はここ数日、度重なる停戦違反があったにも関わらず、停戦はまだ終わっていないとの見解に固執してきたが、それも限界にきたようだ。停戦の崩壊により、バラク・オバマ米大統領とロシアのウラジミール・プーチン大統領の関係がかつてないほど悪化していることが明らかになった。

「ロシア側は市民が暮らす地域への爆撃を止め、人道支援物資を載せた車列の通行を許す義務を履行しなかった」と、米国務省のジョン・カービー報道官は言った。「ロシアは合意に反し、シリア政府に停戦を維持させることを望まなかった」

【参考記事】オバマが見捨てたアレッポでロシアが焦土作戦
【参考記事】ロシア「アメリカは事実上のテロ支援国家」

プルトニウム処分問題でも挑発的態度

 米国務省の声明が発表される数時間前、プーチンは2000年に米ロ両国が合意した兵器級の余剰プルトニウムの処分に関する協定の実行を停止する大統領令に署名した。停止の理由はアメリカの「非友好的な行動」だと主張したプーチンは、アメリカと同盟国が加盟するNATO(北大西洋条約機構)に対して、ロシアの国境に近い東欧での軍事プレゼンスを後退させるよう要求した。さらに、ロシアが14年にウクライナのクリミア半島を併合したことで欧米に課された経済制裁を解除するよう迫った。

 ケリーは5年半に及ぶシリア内戦を政治的に解決するためにロシアからの協力を取りつけようと、ここ1年間奔走してきた。ケリーがプーチンに望んだのは、ロシアが支援するシリアのバシャル・アサド大統領に空爆を止めさせ、包囲下の市民を救う人道支援物資を届けさせるよう説得することだった。ロシア側の協力と引き換えにアメリカは、ロシアが進めるアルカイダやISIS(自称「イスラム国」、別名ISIL)との戦いに協力する意思を示していた。

【参考記事】地獄と化すアレッポで政府軍に抵抗する子供たち

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

5月停戦案と直接協議、ウクライナの返答待っていると

ビジネス

貿易戦争、ユーロ圏の成長とインフレ抑制も=ECBチ

ワールド

韓国最高裁、李在明氏に5月1日に判決 公選法違反の

ワールド

パキスタン、インドの水資源協定停止に法的措置を準備
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【クイズ】米俳優が激白した、バットマンを演じる上…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 8
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中